2014年2月12日水曜日

第772話 桜海老を空振って (その2)

東海道本線・清水駅にほど近く、
国道149号線沿いの「清水うなぎ店」に独り。
若女将といったふうの女性にビールの銘柄を訊ねると、
プレミアム・モルツの中瓶(650円)だけだという。
天敵の名前を告げられ、
映画「八甲田山」の北大路欣也サンじゃないが
「天はわれを見放したか!」―てなもんや三度笠。

永チャンも結子も罪作りな者たちよのォ。
あのCMのおかげでここ数年、
サントリービールが売れ出しちゃったじゃないか。
かく言うJ.C.、若い頃はサントリー純生を愛飲してたんですゾ。
久しぶりにあのビールを飲んでみたい。
復刻版を出してくれないかな、サントリーさんヨッ!

さて、天を仰いだあとは急遽、方針転換の巻である。
瞬時にビールをあきらめた。
好きなビールは2軒目で飲めばそれで済む。
よってお願いしたのは熱燗だ。
本当はぬる燗と熱燗のちょうど中間、、
上燗(じょうかん)だが、外ではなかなかその注文が通じない。
肝心の酒の銘柄は黒松白鹿(420円)だった。
これならまったく文句はない。

酒と同時に肝焼き(2本で700円)とうな丼並(2100円)をお願い。
待つこと数分、お燗と一緒に骨せんべいが運ばれた。
鰻屋の定番といえば定番
さして旨いものでもないが
ベター・ザン・ナッシングであろうヨ。
ましてやサービス品、ここは素直に感謝、カンシャだ。

壁の品書きにうな重は蒲焼とごはんが別盛りとあった。
いわゆる蒲焼ごはんだが、こればかりは一緒盛りのほうが断然よい。
それによって人馬一体感に似た雰囲気が醸しだされるからだ。

そうこうするうち、今度は肝焼きが上がってきた。
立派な肝は迫力満点
粉山椒を振って口元に運べば、
たちまちその口元がほころぶ。
鰻屋に行くと、肝焼きとうな丼の一番小さいのを頼むのが常。
この組合せがベストと信じて疑わない。

1本の肝焼きで酒を飲み、もう1本はうな丼とともに味わう。
これが最高なんですな、ジッサイ。
どんぶりは漆器であった
フタを開けると小ぶりなヤツが丸1尾
このサイズでじゅうぶんすぎるくらいじゅうぶん。
もともとうなぎは小さめに如くはなし。
脇役はコレ
吸い物に肝の姿はなかりけど、
2本の肝焼きをやっているのですでに満足。
新香のたくあんと白菜漬にも手抜かりがなかった。
これで支払いは3千円とちょっと。
鮨屋ならこの3~4倍はいったであろう。

このまま清水にとどまり、2軒目とも思ったが
ここは行き掛けの駄賃ならぬ、帰り掛けの駄賃てこって
どこかほかの街に移動しよう。
そぼ降る小雨の中、傘も差さずに駅へと引き返す。
桜海老を空振って、うなぎに転じた清水の街をあとにした。

「清水うなぎ店」
 静岡県静岡市清水区江尻東3-10-1
 054-366-1649