2014年2月24日月曜日

第780話 あとずさりの大衆酒場 (その1)

いやあ~、まいりましたヨ、驚いた。
いやネ、つい一昨夜のことですけど、
その夜の飲み会は板橋区・板橋の開催。
例によって他のメンバーより先着したJ.C.、
どこかヨソで行きがけの駄賃と
軽く一杯、独り飲みを目論んだ。

時間はたかだか30分しかなく、文字通り一杯しか飲めない。
何度か訪れたJR埼京線・板橋の駅前盛り場で
初めての店を開拓する腹積もりだった。
家を出たときからかねてより聞き覚えた大衆酒場、
「明星(あけぼし)」に狙いを定めてはいた。

店の前を素通りしているから
アルミサッシの引き戸には見覚えがある。
4枚の引き戸の中央2枚の前に植木鉢が三つ四つ。
ちょっと見は障害物っぽく、
酔客が千鳥足で流れ着いたら、けつまづいちゃう。

中の様子は皆目見当がつかない。
外に品書きも何もない。
こういうのは不気味でありながら密かな楽しみをいざなう。
どんな世界が待ち受けていることやら・・・
出たとこ勝負の「えいやっ!」で入店するのだ。

右端の戸に”出入り口”とあった。
右端のサッシを左に引くのだから
左手で引いたほうが身体を滑り込ませやすい。
これを右手で開けてるようじゃ、まだまだ酒場修業が足りない。

スルッと引いてスイッと入店。
だけどネ、だけどですヨ、次の瞬間、全身が凍りついた。
完全にフリーズ状態である。
数秒後フリーズは溶けたものの、一歩あとずさり。
出来るものなら、許されるのなら、
も一度、一から出直したい。
アタマの中で由紀さおりの「手紙」がこだましている。

TV番組を実際に観たことはないけれど、
キタナシュランの星三つ(★なんてあるのかな?)は
いただけちゃいそうな光景が拡がっていた。
なんつう~んだろうネ、こういうの?
とにかくありとあらゆる物が店中ところ狭しと散らばっている。
いえ、店側としては単に置いたんだろうが、
客側としては散らかっているようにしか見えないんだな。
店の名誉のためにあまりツッコミたくはないけれど、
わが目を疑いやした、久々の茫然自失でありやした。

あとで調べ直して判ったが「明星」の開業は昭和23年。
いや、まいったな、ホントに終戦直後にタイムスリップだ。
それにしても食糧難の時代にいったいこの酒場は
何を飲ませ、何を食わせていたんだろうか?

われに返ってカウンターの席に着こうにも
椅子の上にはスーパーかどこかのレジ袋。
中には食料品が詰まっている。
見たところ50代後半と思しき女将がすぐにどけてはくれたがネ。
いや、まいったな・・・ハハ、まだ言ってるヨ。

=つづく=