2014年2月26日水曜日

第782話 あとずさりの大衆酒場 (その3)

板橋駅前の大衆酒場「明星」。
出会いがしらにガツンと一撃食らい、
やっとこさ、カウント・ナインで立ち上がったところだ。

つまみの思案をしていたら新規のお客が来店。
おやおや、初老のカップルじゃないですか。
この店でデートする客もいるんだねェ。
とにかく客は四名になった。

今来た二人はいきなり燗酒、同時ににら玉を頼んだ。
こちらも何かお願いせねば・・・。
選んだのはウインナー焼きである。
”焼き”といってもガス火であぶるわけではあるまい。
フライパンで炒めるのであろうヨ。

その間を利用して今度は飲み物の品定め。

 焼酎 170円   日本酒・ハイボール 各280円   
 レモンサワー・牛乳サワー・デンキブラン 各300円
 ホッピーセット 370円
 
今宵はビール1本で退散する予定だが、
一応、頭に入れておく。

カップルのにら玉より先に、わがウインナーが出来上がった。
正直言って驚いた。
期待のかけらもなかっただけに見直してしまった。
見た目も可愛く、デジカメ不携帯を悔やんだほどだ。

目の前の小皿に盛られているのはウインナーに非ず。
もっとずっと大きい。
さりとてフランクフルターにも非ず。
サイズ的にはちょうど両者の中間かなァ。
それが3本、縦割り真っ二つで計6ピース。
ほどよい焼き目もついておいしぞうだ。
脇にはザク切りのキャベツ炒めまでも。
ありがちな千切りでないところがとても好もしい。

ふと見れば、マスタードまでチョコンと添えられている。
女将曰く、
「コレ、粒マスタードねっ!」―判ってるヨ、そんなこと。
おそらく集結する客の中には
「何だコレ?」―この手の客が多いのだろう。

向かいのにら玉も遠目ながら旨そうだ。
もちろん当方のウインナー&キャベツも上々。
人は見掛けによらぬもの、店も見掛けによらぬもの。
かと言って再訪するのはどうもねェ。

会計は金900円也。
「また、ぜひどうぞ!」―背中で声を聞く。
こういうのに弱いから一度はあとずさった酒場なれど、
また来ちゃうかもしれないなァ。
そんなことより、たかだか30分の滞在に900円のお支払い。
これで三日分書けちゃったんだから
感謝のシルシにウラを返さにゃなるまいて―。

=おしまい=

「明星」
 東京都板橋区板橋1-18-2
 電話ナシ