2014年2月17日月曜日

第775話 兵庫横丁の隠れフレンチ (その1)

「アアッ~!」―真夜中に思わず悲鳴を上げた。
いえ、殺人事件を目撃したわけじゃないが
出し抜けの惨劇に凍りついてしまったのだ。
そう、われらが羽生結弦の転倒である。

ソチに来てからというもの、練習も含めて
失敗がただの一度もナシと聞き及んだ4回転ジャンプ。
何で肝心要の場面で出ちゃうかネ。
終わってみれば、”銀”のP・チャンとの点差は
逆に開いていたけど、ホンマ心臓に悪いアルヨ。

団体のSPを終えた時点でのみともやポン友に
「一度くらい尻餅ついても羽生の”金”は動かない!」―
豪語していただけに顔色を失った。
やはり頂点を目指す滑走者は
ギリギリの難度に挑戦しているだけに
大きなミスと背中合わせなんだねェ。
でも本当によかった、何はともあれ、めでたし。

ハナシはいきなり、ソチからコッチへ。
舞台はかつて花街として栄えた神楽坂。
とあるミッションも手伝い、
最近、この街をひんぱんに訪れている。

都内23区でJ.C.がいつくしむ街は浅草と銀座。
この”金”・”銀”のワン・ツー・フィニッシュは未来永劫だが
”銅”はそのときどきでコロコロ変わる。
門仲・向島・西荻などと並び、神楽坂もその一つなのだ。

何たって、ここで飲む酒は旨い。
料理のほうは意に反してときどき裏切られるが
晩酌にはとても適した街といえる。

有名な本多横丁の西側に
これぞ神楽坂! という雰囲気を漂わせる細い坂道がある。
その名も兵庫横丁。
途中に石段なんぞがあって情緒たっぷり。
灯ともし頃にそぞろ歩けば、
頭上から三味線(しゃみ)の爪弾きが降りそそいできそうだ。

兵庫横丁をご存知の方は
かなりの神楽坂通を自負しても許されますヨ。
そこそこ名の知られた店々が並んでいるのに
横丁の知名度はけっして高くない。
道を行き交う人もめっきりと減るのだ。

ある日、坂を下る途中に「ARBOL」という仏料理店を発見。
F田サンなる民家で、玄関には表札とインターフォンが出ている。
変わった店だよねェ、っていうかァ、何かヘンだよなァ。
玄関先にはワインリストとメニューの立て看板も出ている。
以来、通り過ぎるたびに
盛況ぶりがうかがえたりもして、ずっと気になっていた。

そんなとき、たまたま鎌倉ののみともからレンラクがあり、
渡りに舟と誘ってみたら、二つ返事で乗ってきた。
フフッ、相変わらず能天気なヤツよのォ・・・。

=つづく=