2015年6月16日火曜日

第1121話 さしともと飲んだべサ (その3)

駒込の「食堂ときわ」。
一年ぶりの来店になろうか?
店内は大型店「巣鴨ときわ食堂」の4分の1ほどの広さ、いや、狭さである。
 先客は単身者が二人だけ、それぞれに夕食をとっている。

TVの下にいるお客の献立は見えないが
近くのオジさんが食べているのはサンマの開きで、これが実に美味しそう。
何となれば、中骨の周りの身肉がほんのりとピンク に染まっているのだ。
この部分が黒ずんでいては食欲が湧かない。

晩夏から初秋にかけて出回る新鮮な生サンマの塩焼きに
酢橘(すだち)を搾り掛け、大根おろしとともにいただくのは
よくぞ日本に生まれけりの美味だが通年楽しめる開きもまた捨てがたい。
少なくとも年をまたいで食べる、
前年に漁獲された解凍モノよりずっと美味である。
そりゃそうだヨ、干物は獲れて獲れて仕方がない旬の時期に
製造されるのだから、さもありなん。

しかるに当夜のわれわれはサンマの開きを注文しなかった。
飯のおかずにはよくとも、
酒の肴としては?マークが付くのが魚の開きだ。
サンマにせよ、アジにせよ、開きは朝食向きで、晩酌には不向きと言えよう。

取りあえずビールで乾杯したあと、
いきなりの一品はこの店におけるわが定番、ホヤ塩辛。
別段、好物というほどでもないけれど、
他店ではあまり見掛けぬ品にて、つい頼んでしまう。
赤貝にも似たオレンジのグラデーション美しく、
適量なのが頼みやすさにつながる。

ところが、いや、実に驚いたのだが
K子老人はかつてホヤを食べた記憶がないと言うではないか。
さっそく試食してもらうと、美味しいネのひと言があったものの、
あまり口に合わなかった様子が何となく伝わってくる。

老人がおもむろに所望した白菜漬は
なかなかの漬かり具合ながら、いかんせんしょっぱい。
J.C.の推奨によりオーダーした肉ニラ炒めまでヤケにしょっぱい。
前回の訪問ではとてもよかった料理だけにショックだ。

年配者の健康を害してはならじ。
何か塩辛くないものをと思い、お願いしたのがポテトサラダ。
うん、これなら安心、安心。

この頃には二人とも冷酒に移行しており、
日本酒にポテサラというのもねェ・・・
そんな気がしないでもなかったが意外と合った。
もしもこれが燗酒なら、こうはゆくまい。

2時間ほど談笑してお勘定。
夜の町を不忍通りまで歩き、クルマを止めてお見送りである。
はて、今宵はどこで飲み直すとするかの?

=おしまい=

「食堂 ときわ」
 東京都北区田端4-1-1
 03-3824-6070