2015年8月4日火曜日

第1156話 池波翁の「銀座日記」 (その3)

それでも上野の「愛玉只」は今も健在。
界隈には見どころも少なくなく、
散歩がてらに一度はお出向きあれ。

(ソフィスティケーテッド・レディース)

午後、講談社か[イン・ポケット]の編集長・宮田君が来て、横浜へ行く。
波止場で写真を撮られる。
年少のころ、横浜に遊んだ日々が、さまざまにおもい出されてきた。
夕暮れになったので[ニューグランド・ホテル]のバーへ行き、
マンハッタンをのむ。
「そろそろ、いいでしょう」
というので、東京へひき返し、築地の[K]で常盤新平さんと対談をする。
帰宅して、カラスの[カルメン]全曲のレコードをテープに入れる。
二時間半もかかってしまい、今夜は、
それをウォークマンで聴くうち、いつしか眠ってしまう。

ふ~む、翁はオペラにも造詣が深いのですな。
やはりカラスには魅了されるようで
男声ではドミンゴが気に入りのハズだ。

サブタイトルと内容が伴わないのは
一つのタイトルの範疇にいくにちもの日々が綴られているため。
ご了承のほどを。

(親おもう心にまさる親心)

二人の友人と、奥多摩へ遊びに行く。
先ず、沢井のあたりを取材してから吉野梅郷へもどり、
故吉川英治氏の夫人が経営する[紅梅苑]へ行き、少憩する。
ここのコーヒーは、注文があるたびごとに新しくいれる。
だから、うまい。
名実ともに、いまや奥多摩の名物となった菓子を求めてから、
福生へまわり、旧知のレストラン[さんちゃん]で夕飯。
熱々のタマネギのフライで冷たいビールをのんでから、
それぞれにステーキ、カレー・ライス、カニの焼飯、
その他を注文し、分け合って食べる。
満腹して車に乗ったら、たちまちに眠ってしまい、
「着きましたよ」
いわれて、めざめたら、もう品川の家の前だった。

奥多摩へは小学校六年生の遠足以来、一度も行っていない。
どうも自然派じゃないんだよネ。
福生の洋食店も名前を聞いたことがある程度、
第一、福生の町を訪れたことがない。
いかにも池波翁好みのメニューが並んでいて
満腹&満足が紙面からも伝わってくる。

そう、そう、池波邸は戸越の辺りにあった。
星薬科大学の裏道を好んで散歩されていた。

=つづく=