2015年8月13日木曜日

第1163話 池波翁の「銀座日記」 (その10)

またもや、PC不調で丸一日遅れのアップにて恐縮です。
さらに(暖かな日々)のつづき。

新しい年が明けた。
私は、早生まれの戌(いぬ)で、本命の星は六白である。
去年、この六白の星をもつ人は大なり小なり、ひどい目に会った。
むろんのことに例外はあるけれど、
何といっても五黄殺という恐ろしい星が
上へ乗って来たのだから、どうにもならない。
今年は外国へ二度ほど行くつもりだが、
体力的に自信がなくなってきている。
今年は仕事を思いきって減らすつもりだ。

朝から、」まるで春のような暖日。
何だか気味が悪い。
第一食に昨夜のチキン・コロッケをソースで煮て食べる。
午後からY新聞へ行き、例年のごとく映画広告の審査をやる。
これも今年かぎりで辞めることにした。
早く終ったので神保町へ行き、散髪。
それからB社へ行き、むかしからの担当者四名と
近くの中華料理で夕飯をする。
みんな、中年になってしまって食べないし、飲めない。
私も大きなグラスに冷えたビールをなみなみと注ぎ、
ぐっとのみほしたいのだが、のめなくなってしまったし、
すっかり食が細くなってしまった。
先行き、体調が変わって、また、のめるようになるか、どうか・・・
おそらく、そうはならないだろう。

1988年、新春のことである。
めっきりと気が弱くなっていて気の毒なくらいだ。
大好きだったビールにしてもグラス1杯が飲み干せなくなっている。
体調の復元を自ら否定しきってしまっている。

「銀座百点」に連載した「池波正太郎の銀座日記」はここまで。
続いて「池波正太郎の新銀座日記」が始まる。
文庫本のタイトルに、[全]とあるのはこのことだ。

(久しぶりの試写通い)

秋晴れの朝、ほんとうに久しぶりで、試写会へ出かける。
終って、ビルの1Fにある[O軒]へ行き、
たのんでおいたレーズン・パイを受けとり、
店の奥のパーラーでエスプレッソをすするうち
疲れが出てきて、何処へも行く気がしなくなる。
帰りも地下鉄にする。
脚力が、おとろえてしまったことが、はっきりとわかる。
夕飯は家へ帰って食べることにしたので、
コーヒーをのみながら
(何にしようか?)
と、考える。

=つづく=