2015年8月12日水曜日

第1162話 池波翁の「銀座日記」 (その9)

(最後の新国劇)

昨日の朝、新国劇の解散を新聞で知る。
午後になると、新国劇と関係が深かった私のところへも、
新聞や通信社その他から、
原稿やインタビューの依頼があったが、その大半をことわる。
いまさら、何をいうことがあろう。
きょうは、夜になって、
新国劇の島田正吾・辰巳柳太郎の両氏が解散のあいさつに見える。
おもえば、新国劇と私のつきあいは三十六年にもなる。
なんという、歳月の速さだろう。
そのことをいうと、二人とも、憮然たる面もちとなった。
人間という生きものに対しての、歳月の速度は無常でさえある。

名優・緒方拳を生んだが、すでに消滅した新国劇。
ひるがえって細々とではあるけれど、
新派の存命が不思議なくらいだ。
そうですねェ、歳をとってからの一年は
子どもの頃の三年に匹敵しましょうか・・・。

この夏は仕事を減らし、
のんびりできるかとおもったが体調を崩してしまい、
予定通りにはいかなかった。
残暑も、ようやくしのぎやすくなったけれども、
秋からの仕事が詰まって来て、なかなか銀座へも出られないし、
試写にも行けない。
食欲がなくなってしまい、体重も減ってきて、どうも元気が出ない。
きょうは夕飯に、近くの商店街のマクドナルドから
ハンバーガーを買って来させ、それで少量の酒をのんでから、
あとはトロロそばにしたら、うまく食べられた。
こんなのもタマにはよい。

夏マケというか、このあたりから翁の生命線は下降気味となっている。
しかし、マックのハンバーガーで酒なんぞ飲めるものかなァ。
ビールやワインならともかくも日本酒はキツかろうヨ。

(暖かな日々)

今年最後の試写へ出かける。
かつて、満州国の皇帝だった溥儀の自伝をもとにして
イタリアのベルナルド・ベルトリッチ監督がつくった、
[ラスト・エンペラー]である。
三時間に近い長尺を少しも退屈せずに観た。
ピーター・オトゥールのイギリス人牧師がよく、
日本から参加した坂本龍一の甘粕大尉はどうにもならない。
坂本に甘粕は無理だ。
だが、坂本担当の音楽はよかった。

予想に反してどうしようもなく退屈な映画だったネ。
日本人の俳優としては
海外の、殊に女性に人気の坂本龍一だが
箸にも棒にも掛からない稀有なアクターと断ずるほかはない。

=つづく=