2015年8月24日月曜日

第1170話 池波翁の「銀座日記」 (その17)

(吉右衛門の”鬼平”)のつづき。

きょうは、うすぐもりで雨は降らなかったので、散歩に出る。
まったく久しぶりのことだが、
何といっても足がおとろえてしまって、これではどうしようもない。
自動車がまったく通らぬ、私の大好きな、
H薬科大学の裏道を往復すると約二十分弱。
これでは少し足りない。
そこで大通りに出ると、大小の車輛が押し寄せて来て、
排気ガスがたちこめ、胸が悪くなる。
我慢して二十分ほど歩き、帰宅する。
少しでも歩いた所為(せい)か、気分はよい。
明日も歩くつもりなり。
夕飯は、到来物の加茂茄子の味噌かけ。
旨かった。

四度目の[鬼平犯科帳]テレビ化で、第一回を観る。
今回は中村吉右衛門の平蔵で、
これを実現させるのに五年ほどかかった。
プロデューサーの市川久夫さんも、よくねばってくれた。
吉右衛門の鬼平は、第一回のときの父、
松本白鸚(当時は八代目幸四郎)に風貌が似ていることはさておき、
実に立派な鬼平で、五年間、待った甲斐があったというものだ。
しかし、この五年間に激しく時代は変わった。
映画もテレビも、時代劇がどんなものか忘れてしまった。
だから、吉右衛門、中村又五郎をのぞいて下の傍役が、ひどく落ちる。
これは仕方のないことだろう。
回数が進むにつれ、スタッフもよくなってくれるだろうと、期待する。
テレビが終わってすぐに、吉右衛門さんから電話がある。
労をねぎらい、原作者として満足したことをつたえる。

H薬科大学は品川区荏原にある星薬科大学。
池波邸は大学の近所のハズで察するに、最寄り駅は
東急目黒線・不動前か、東急・池上線戸越銀座ではなかったか・・・。

確かに”新鬼平シリーズ”における吉右衛門の存在感は
他者を睥睨、凌駕すること圧倒的。
松平の健チャンにゃ悪いが、「鬼平」を観てしまうと、
「暴れん坊」を観る気がしなくなるんですヨ。

(夏のロース・カツレツ)

脂身のたっぷりついた黒豚のロース・カツレツ。
これこそ、私の夏の活力源だ。
しかし、家で食べるとなると、なかなか、おもうようにいかないが、
このごろ、サラダ用のキャベツのいいのが買えるので、
梅雨が明けてから何度も食べた。
ソースはトマト・ピューレをまぜて家でつくる。
今度、外へ出たら、どこで、ロース・カツレツを食べようかと考えている。
私のは、いわゆるトンカツではない。
昔風のロース・カツレツだ。

=つづく=