2015年8月25日火曜日

第1171話 池波翁の「銀座日記」 (その18)

本当にカツレツは翁の大好物。
三日と空けずに賞味しているものなァ。

そして、なおも(真夏のロース・カツレツ)

先日から銀座の歯科医院へ通っている。
きょうも行く。
すぐに終わったので、神田の床屋へ電話をかけておいて、
タクシーで神保町まで行く。
散髪をすませ、近くの[揚子江菜館]へ寄り、
五目冷し中華そば食べ、シューマイをみやげにしてもらう。

ひや麦・そうめんはもとより、
冷やし中華のお世話になる季節の真っただ中。
そうそう、冷やし中華とといえば、
先週金曜日の朝日新聞朝刊に、発祥の店、2軒が紹介されていた。
仙台市・青葉区の「龍亭」と
翁の御用達、東京都・千代田区の「揚子江菜館」である。

どちらもいただいているが、迷うことなく「龍亭」に軍配。
それもかなりの大差があった。
この夏の甲子園の準決勝、
仙台育英と早稲田実業の7-0ほどではないものの、
4-1くらいの開きはじゅうぶんにあったネ。

昨日から、台風十三号が接近しつつある。
このため、風雨が強くなる。
テレビをつけたら、十六年前に観た[愛の嵐]をやっていた。
観るともなく観ているうちに、我知らずひき込まれて、
ついに終りまで観てしまう。
ダーク・ボガード、シャーロット・ランプリングの両主演者、
リリアーナ・カヴァーニの監督。
三拍子そろった佳作で、ランプリングのみずみずしさにおどろく。
彼女は二十七歳だったのだ。
十数年ぶりに再会した、元ナチスの親衛隊員とユダヤ人の美少女が、
ナチズムの執拗な手によって、つけねらわれる悲劇。
舞台背景はウィーンで、この時代には、
こうしたテーマが精彩をはなっていたのである。

「愛の嵐」(原題:ザ・ナイト・ポーター)は大好きな作品。
翁が指摘するごとく、ランプリングが本当にすばらしい。
イギリス人の彼女の父親はベルリン五輪(1936年)における、
陸上競技、1600mリレーの金メダリスト。
その血筋を引いているためか
痩身にしてしなやかな肢体の持ち主である。

ランプリングの容貌は英国人というよりもドイツ人、
あるいはオーストリア人を偲ばせる。
画面に流れる退廃的なエロスは欧州の匂いに満ちて、
とても米国の女優が醸し出せるものではない。
ルキノ・ヴィスコンティが絶賛したという「愛の嵐」であった。

=つづく=