2015年8月26日水曜日

第1172話 池波翁の「銀座日記」 (その19)

翁の「銀座日記」、(夏のロース・カツレツ)のつづき。

うすぐもりで風もあり、歩きやすい。
昨日も銀座へ行き、歯の治療。
終って[みかわや]へ行く。
ポーク・カツレツ、御飯、サラダ。
前から考えていたのだが、この店のロース・カツレツは
ロースの脂がたっぷりついていて、
むかしの洋食屋のそれを略(ほぼ)再現している。

きょうは、つづいて歯科医院へ行き、
終って、久しぶりに高島屋楼上[野田岩]の、中入れ鰻丼。
うまい。
鰻は、ここに限るとまではいわぬが何といっても行きやすい。
地下鉄で銀座に引き返し、和光へ行く。

何だかんだ言いながらもそこは健啖家、
けっこうしつっこいものを盛んに召し上がっているではないか。
J.C.も[みかわや]のロースカツは大好きだ。
同好のよしみで
とんかつよりロース・カツレツと言い張る翁の気持ちがよく判る。

日本橋・高島屋4階の特別食堂内にある、
[野田岩]もかつて盛んに利用した。
金融界に身を投じた1980年頃はオフィスが芝の神谷町にあったので
東麻布の本店をよく訪れたが日本橋本石町に移転してからは
高島屋店のお世話になった。
2005年7月に上梓した「J.C.オカザワの下町を食べる」から
その稿を紹介してみよう。

=多国籍軍の勝利=

改装のかいあって高島屋のレストランは実に充実している。
都内のデパートでは随一といってよい。
どこにでも入居するつまらん店舗ばかりの三越新館よりずっといい。
「お好み食堂」、地下のレストラン街、ロブションの「サロン・ド・テ」、
数あるうち、ベストがこの「特別食堂」。
料理の質、居心地のよい空間、快適なサービス、非の打ちどころがないが
強く推す理由は一つのテーブルで和食・うなぎ・仏料理を
同時に味わえるその多国籍性だ。
そのためにも単身で訪れてはつまらない。
カップルでも不十分、気の合った仲間や家族で出かけるのが正解だ。

食堂内の「帝国ホテル」では
仔牛のカツレツ・コルドンブルー風とコンビネーションサラダ。
ハムとチーズをはさみ込んだカツレツにはドミグラソース、
ガルニテュール(付合わせ)も丁寧で美味しい。
サラダのドレッシングもさすがに高級ホテルの底力を発揮している。
「大和屋 三玄」は三玄弁当。
あんかけの炊合わせと、おぼろ昆布にすり身団子の吸いものが秀逸だ。
「五代目 野田岩」のイチ推しは志ら焼丼。
磁器のどんぶりがいいし、本わさびはたっぷり。
クドさを和らげる大根おろしもありがたい。
東麻布の本店には及ばぬものの、
ある日、いかだ蒲焼定食にありつけて、ささやかな幸せを感じた。

実際、都内の百貨店にここ以上の食事処はありませぬな。

=つづく=