2015年10月5日月曜日

第1200話 婆ちゃんたちのささやき (その3)

とげぬき地蔵そばの「すがも園」。
天ざるを注文した婆ちゃん二人の元に
戻ったお運びの女性が言いました。

「天ぷらでしたら、目の前の通りを右にずっと行くと、
 同じ並びに『てんや』ってお店がありますよ。
 ちょうど巣鴨駅の前あたりです。」

「てんや」は天丼のチェーン店である。
初めて利用したのは20世紀末、
JR錦糸町駅ビル内の店舗だった。
いや、マイッたネ。
揚げ油の質が悪く、食べられたものではなかった。

それがここ数年、いや、もっと以前からだろう、
かなり美味しくなってきている。
わが髪を理してくれる渋谷のヘアサロンもK子チャンは
学生時代に「てんや」でバイトした経験を持つが
賄いで毎日食べても飽きなかったと言う。
食事の時間が待ち遠しかったとまで言い切るのだ。

まあ、判らんことはないけれど、
毎日・毎食、天ぷらはごめん蒙りたいネ。
そう、そう、「てんや」とくれば、日本そばのレベルが高い。
少なくとも立ち食いそばチェーンの「F」、
あるいは「K」の水準を超えている。

それに加えて生ビールと小さな天ぷら盛合せのセットがよい。
小腹が空いて、なおかつビールが飲みたいときに重宝する。
浅草・上野・神保町、あれまっ、ずいぶんお世話になってるな。

そう、J.C.にとっては「てんや」、「日高屋」、「吉野家」、「松屋」、
そのすべてがちょい飲み酒場に等しいのだ。
ロンドンのパブ、パリのカフェ、
ローマのバールの役割をはたしてくれている。
ありがたや。

さて、お隣りの二婆であった。
「ご親切にどうも・・・」―店員にお礼の言葉をかけたあと、
二人の会話が始まった。

「チェーンの天ぷらじゃ、ウチのお爺さん、いい顔しないのよォ」
「だけど、あすこの天丼、バカにできないわヨ」
「ホント、ほんと、今どき500円じゃ天丼なんか食べられないからネ。
 でも、わたしゃ、ここのが好きなんだわ。
 ハナシしたら、お前ばっかり旨いもん食ってないで
 たまにはみやげに買って来い!って言われちゃってサ」
「揚げ物は自分ちでやると、面倒だもんねェ」

歳をとると耳が遠くなるぶん、声がデカくなるから、よく聴こえた。
おかげで二人のささやきを、しばし楽しむことができたのでした。
いえ、あのボリュームは”ささやき”とは言わないな。

=おしまい=

「すがも園」
 東京都豊島区巣鴨3-20-17
 03-3917-2450