2015年10月2日金曜日

第1199話 婆ちゃんたちのささやき (その2)

巣鴨はとげぬき地蔵(高岩寺)前の目抜き通りにある、
「すがも園」で中華そばを待っている。
昭和の時代には支那そばの名称で親しまれたラーメン。
あの頃は町の中華屋の品書きに
柳麺の表記をひんぱんに見掛けたものだが
近頃はトンと目にしなくなった。
むしろ拉麺が主流となっている。

拉麺はよくないなァ。
”拉”の字が”拉致”を連想させて
中国よりも北朝鮮のイメージがまとわりつく。
よくないねェ。

しばらくして運ばれたどんぶりにはチャーシュー、
シナチク、青梗菜(チンゲンサイ)が浮かんでいた。
往時はほうれん草だったのに青梗菜とは・・・
時代の移り変わりを実感した次第である。
もっとも他店で見ることはまずないから
巣鴨、いや、「すがも園」だけのアイデアか。

麺を一箸すすると、これが悪くない。
少なくとも予想を超える味わいがあった。
真うしろのテーブルでは二人の婆ちゃんが
もやしそばを楽しんでいる様子だ。
「美味しいネ」
「うん、美味しい」
そんなつぶやきが聞こえてきた。

すると隣りの卓に、これまた二人の婆ちゃんが着席に及んだ。
聞き耳を立てていたワケではないけれど、
注文品は天ざるが二つである。
ふ~む、天ざるかァ、巣鴨の婆ちゃんはリッチだなァ。

中華そばを食べ終えたJ.C.、即お勘定ではなかった。
隣りの天ざるを拝見してから席を立つつもりになっている。
はて、どんな天ざるが現れるものやら好奇心につまづいたのだ。

立ち上がって上から目線でのぞき見るのははばかれる。
仕方なく、チラリちらりとうかがうと、
ほう、なかなかの見てくれぶりである。
驚いたのは婆ちゃんの一人が箸をつける前に
天ぷらのテイクアウトの交渉に入ったことだった。

「おタクの天ぷら美味しいから二人前包んでいただけない?」
応えた中年女性のお運びさん、
「ごめんなさいネ、ウチはお持ち帰りしてないんですよォ」
へえ~ッ、人は見かけに、もとい、店は見かけによらぬもの。
そんなに旨いのかネ、ここの天ぷら。
中華そばはなかなかだったし、
天ぷらのレベルもかなり高いのかもしれない。

そろそろおいとまと、伝票をつかんだときに
先刻の接客係が隣りのテーブルに舞い戻ってきた。

=つづく=