2015年10月8日木曜日

第1203話 店は見かけによらぬもの

2ヶ月に1度の割合いで髪を切る。
いつものように渋谷区役所前の「B」へゆく。
その夕べも頭髪をサッパリさせたあと、
近所に晩酌の止まり木を求めた。

ハチ公広場方面はあふれ返る人混みがイヤだ。
原宿あたりは若者の街にして
年配者が訪れてもシックリこない。
こないどころかオジャマ虫扱いされるのが関の山。
とかく現代の東京には遊びにくいエリアが増えた。

よって、当夜は東京メトロ千代田線・代々木公園駅を目指す。
小田急線・代々木八幡駅も至近距離に隣接している。
渋谷のヘアサロンに通い始めて、およそ15年。
おかげで周辺の様子はしっかりと頭に入っている。

そば屋で飲むのが好きだから
当夜も富ヶ谷商店街の「長寿庵」に落ち着くつもりだった。
つもりだったが、一応、道筋の店々を見定めることを忘れない。
この作業がとても重要なのだ。

そうして発見したのが居酒屋「滝乃家」。
外見の印象はけっしてよくなかった。
ビルの半地下にあって、どことなく期待できない感じ。
店先のメニューボードを見てみても訴えてくるものがない。

まっ、いいやァ、というより、
エイヤッ!ってな勢いで入店してみた。
バイトと思しき若い男性が応対してくれたが
スレてなくてこれはこれでいい。

板場で包丁を握る店主もまた、
言葉少なめで注文をさばくことに神経を集中している。
店先の第一印象より、
店内における第二印象のほうがずっといい。
こういうことはままあるもんだ 。

サッポロ黒ラベル大瓶の突き出しは蓮根煮。
ビールの合いの手としては上々のデキだ。
最初にオーダーしたのは刺身5点盛りである。
内容は、平目・さんま・酢あじ・白いか・インドまぐろ中とろで
これがたったの1000円ポッキリ。
それぞれの質・鮮度ともに申し分がなかった。
加えて添え物もすばらしく、
酢橘(すだち)・穂しそ・紅たでが実に効果的だ。

とりわけ酢橘の存在が大きい。
平目と白いか、はてはさんまにまで搾りかけて
その特性を堪能する。

ビールのお替わりと一緒に頼んだ焼き鳥は
ねぎまとつくねを1本づつ。
う~ん、天は二物を与えんネ。
すべて試したわけではないけれど、「滝乃家」は刺身に尽きる。
反して、焼き鳥はごくフツーなのだった。

そこを差し引いてもサカナたちのラインナップに
あらためて”店は見かけによらぬもの”、
その感を深めた次第でありました。

「滝乃家」
 東京都渋谷区神山町4-19
 03-3468-7844