2015年10月1日木曜日

第1198話 婆ちゃんたちのささやき (その1)

その日は歩いた、歩いた、実によく歩いたのですヨ。
西新宿で所用を終えたのが午前10時半。
さて、どこで昼めしにするかの?

ザッと1時間半は散歩に費やすとして
それに見合った目的地に進軍しなければならない。
要するに、渋谷・池袋・四ツ谷・中野あたりでは近すぎるってこった。

候補地としては、銀座・麻布・上野かな?
浅草・深川・西荻ではちと遠すぎる感がある。
思案の末に目指したのは駒込・田端方面であった。

あっちフラフラ、こっちヘラヘラの挙句、
婆ちゃんの原宿、そう、とげぬき地蔵を擁する巣鴨に到着の巻。
時刻はすでに12時を過ぎていた。

 ♪   上野オフィスの 可愛い娘
   声は 鶯谷わたり
   日暮里笑った あのえくぼ
   田端ないなア 好きだなア
   駒込したことア ぬきにして
   グッと巣鴨が イカすなア ♪
      (作詞:小島貞二)

小林旭が「恋の山手線」を歌ったのは
東京五輪が開催される半年前の1964年3月。
いや、上手いこと詞をつけたものよのォ。
イカす街、巣鴨が婆さんたちの原宿に変身するとは
さすがのマイトガイも予測がつかなかったろうヨ。

巣鴨とくれば、うなぎの「にしむら」、洋食の「タカセ」、
大衆食堂の「ときわ」あたりがピンとくるけれど、
地蔵通りを流しながら、ふとアイデアが浮かんだ。

そうだ、婆ちゃんたちでにぎわう休息所みたいな店に入ってみよう、
かように思い立ったのであった。
お汁粉やあんみつ、かんぴょう巻きやいなり寿司、
はたまた、親子丼や中華そばを供する甘味処にして食堂である。
そんな店がとげぬき地蔵の目抜き通りには何軒かあるのだ。

立ち寄ったのは中でも一番繁盛している「すがも園」。
店頭で黒山の如くに人だかっている婆ちゃんたちの脇をすり抜けて
店内に入ると中はそれほど立て混んでいたわけではない。
客の入りはパラパラのパラであった。

注文したのはラーメン、あいや中華そばだ。
J.C.はこんな店舗の中華そばが好き。
間違っても麺の上に魚粉がブッカかっていたりしないからネ。
これが古く良かりしにっぽんの中華そばなのである。
昭和20~30年代の中華そば、いや、当時は支那そばといったが
ラーメンとは本来、そいうものだと信じて疑わない自分である。

=つづく=