2015年10月22日木曜日

第1213話 京成沿線を歩き続けて(その5)

かつては文豪・永井荷風が好んで出没した小岩の町に独り。
居酒屋「江戸政」で小さめのジョッキを飲み干したところだ。
突き出しの野菜の煮ものがなかなかで
すぐに瓶ビールをお願いすると、

「エッ、もう飲んじゃったの?」―店主に驚かれたが
続けて
「そうだよねェ、待てないよねェ」―すまなそうな視線を送られた。
生だと少々待たせることになる。
客に気を使わせちまったなとリグレットしているのだ。
それには逆にこちらがすまないと思ってしまう。

生ビールは手間ヒマが掛かるというより、
いきなりドバドバ注げないから時間が掛かる。
立て混んだときには生より瓶のほうが店側にとってラクなのだ。

結局は薬局、冷蔵庫から大瓶を取り出したのはJ.C.自身。
もっともこういうのはちっとも苦にならない。
オヤジの人柄にもよるが、むしろ歓んでお手伝いしたくなる。

実の娘さんだろうか、接客係がようやく出勤してきた。
店主に気を使う素振りさえ見せないから
血がつながっているハズ、
雇われ人ではとてもこうはいかない。
これでオヤジさん、一息つけることとなった。

それではと売れ筋のメニューから
大あさりバターというのをを注文する。
あさりバター、あるいはあさりの酒蒸しを
めったにオーダーしない理由は味噌汁が一番だと思うからだ。
そう言えば、スパゲッティ・ヴォンゴレも久しく食べていないな。
最近、街のレストランをのぞき見ても
ヴォンゴレはひと頃の人気を失ったような気がする。

あまり時間を経ずに運ばれた大あさり。
ところがコイツが大きく外してくれた。
千葉県・内房から揚がるあさりは本来、良質なのに
コイツは古来から千葉に生息する”和あさり”ではなかった。

それでは何だろう。
10年近く前、突如、
町のスーパーにデビューしたホンビノス貝である。
もともとの生息地はアメリカの東海岸。
そう、ニューヨークやボストンの海域だ。

では誰が輸入したのだろう。
誰も輸入などしていない。
さすれば、貝が勝手に移動してきたのだろうか。
こんな遠距離を移動していたら、
到着前に貝の寿命が尽きちゃうヨ。
調べてみたらいとも不思議な事象が発覚したのであります。

=つづく=