2015年10月9日金曜日

第1204話 王子で味わう ツブとブツ (その1)

つい先日、東十条までテクテク歩いて行ったばかりなのに
此度はJR京浜東北線で一つ手前の王子を目指した。
もちろん徒歩でネ。

田端銀座のハズレにある、
「パンのかわむら」の食パンにはまってしまい、
再び購買に立ち寄ったあと、
行きがけの、もとい、帰りがけの駄賃にと、
またもや散歩を楽しんだのだった。

駒込駅から霜降銀座を一気に北上する。
この商店街は都内有数の面白さを誇っている。
鮮魚店・青果店・スーパーマーケット、
個性あふれる店々が連なって
そぞろ歩きにもって来いなのだ。
城南の戸越銀座、
城東の砂町銀座に匹敵する魅力に満ちみちている。

西ヶ原、滝野川を抜け、
ぶつかった明治通りを右に進めば、
桜の名所、飛鳥山が見えてくる。
JR王子駅は山のふもとに位置している。
JRのみならず、都内に最後に残ったチンチン電車、
都営荒川線が走っているし、
地下深くには南北線が十数年前に開通した。

王子はこの先の赤羽と並び、
今や城北の交通の要所といえる。
王子・十条・赤羽一帯は終戦まで
大日本帝国の一大軍都であったのだ。

荒川線の停車場でT栄サンと待ち合わせた。
相方は都電に乗って来るのではないが
王子にはここぞといった待合わせの適所が
ほかに見当たらない。
JR改札口のそばにあるのも都合がよい。

たそがれ時ではあるが、灯ともし頃ではまだない。
連れだって向かったのは「山田屋」だ。
庶民に愛好されるこの大衆酒場は
街のランドマークと言い切ってもよいだろう。
浅草に「神谷バー」、銀座に「ライオン」あらば、
王子には「山田屋」がある。

仕掛けが早かったせいか、
店内は客もまばらでガランとしていた。
友人の坂崎重盛翁は
”体育館で飲んでるみたい”とこの店を表現した。
実に言い得て妙である。

=つづく=