2018年5月15日火曜日

第1871話 中華の細うで繁盛記 (その2)

千葉県・松戸市の上本郷。
松戸市というのは江戸川をはさみ、
寅さんで全国にその名を知らしめた柴又の対岸。
演歌で有名な矢切の渡しの向こう側である。

ともにこの土地にゆかりのある二人が
町の中華屋、「大八北珍」で飲み始めた。
今宵はゆるりと、
当地にまつわる思い出話に花を咲かせよう。

お定まりの瓶ビールをお願いしてグラスを合わせる。
菜譜に目を通して驚いた。
何だヨ、あなご丼って?
ありゃりゃ、スパゲッティ・ナポリタンまであるぜ。
あらためて時の流れを痛感する。

お通しは小さな冷奴。
腸詰めにはプチトマトと白髪ねぎ、炒めた小松菜も。
海老蒸し餃子、いわゆるハーガウは
点心専門店のレベルには達していないが
昔はこんなシャレたものはメニューになかった。

紹興酒に切り替えた。
花彫塔牌珍5年の600ml入り である。
相性のよさそうな牡蠣ニラ炒めと合わせる。
牡蠣は片栗粉をはたいて揚げたものを
ニラと炒め和えてあり、花彫との相乗効果を生んでいる。

ゆでた豚バラ肉のニンニク醤油がけ、
俗に言う、雲白肉を追加した。
もっと薄くスライスしてほしいが、その味付けに箸が進む。
ニンニク醤油のチカラというほかはない。

締めはあんかけの五目焼きそば。
たっぷりの具はありがたいけれどヤケにしょっぱい。
白飯のおかずになるほどだ。
急に飲みたくなってビールに舞い戻る。
こういう料理にビールは必要不可欠。
プハ~ッ、生き返る思いがした。
会計は6千円あまりと、これは松戸価格かな。

食後、上本郷の町をぶらり。
よく買い物をしたスーパー、マルエツはそのままの姿。
庶民的な日本そば屋「稲廼家」、
ちょいと高級な鮨店「菊よし」、みな健在だ。

おっと、「佐藤精肉店」が生き残ってるじゃないか―。
当世、個人経営の肉屋は稀少にして貴重。
すき焼き・ステーキ用に牛肉、
生姜焼き・ソテー用に豚肉をちょくちょく買った店なのだ。

ここの店主の口ぐせを今も忘れない。
グラム数を明言している客に向かって
「奥さん、ちょっと出ましたァ!」―
ハハ、これが毎度のことだから
口ぐせというより巧みなオッツケだネ。
あのオヤジさんの姿が見えないから
とっくに引退したか、
もうこの世の人ではないかもしれないなァ。

「大八北珍」
 千葉県松戸市仲井町3-13
 047-368-1609