2019年4月2日火曜日

第2101話 旧友 マニラより来たる (その3)

谷中霊園の北のはずれにある炭火焼き鳥店「鳥真」。
先客は若いカップルが2組の計4人。
オッサン同士はわれわれだけである。

数年ぶりの再会を祝って取り急ぎ乾杯。
中ジョッキはキリンの生である。
ともにかなりの呑み助につき、
ほとんど間を置かずにお替わり。
突き出し代わりに供されたキャベツの繊切りには
和風の胡麻ドレッシングがかかっていた。

客は手書きのメニューを見ながら
注文の品々をメモ用紙に書きだして提出するシステム。
串は鳥のほかに野菜もいくつか、計15種ほど。
健啖家の相方なら全品制覇は確定の赤ランプであろうヨ。

実はJ.C.、夕暮れどきから
いつものように独り0次会を敢行しており、
酒のアテはあまり必要としていないが
取りあえずペンを取る。

「半チャン、全部イッチャうでしょ?」
「ええ」

「ええ~っ!」じゃなくて
軽く「ええ」という御返事でありました。
だよね~。
だけどサ、いくら馬主でも、馬じゃないんだから
少しは戸惑いの色を見せてほしいよなァ。
どうやらこの人に取っては炭火焼き鳥も
単なるカイバに過ぎないということらしい。

ハツ、ハツモト、ふりそで、トマトの4串を書き出し、
店主に
「ボクはこの4本、こちらは全品ネ」
そう告げた途端、右隣りの女性客が叫んだ。
「うわ~っ、スゴい!」
だよね~っ。

まあ、彼女の発した一声のおかげで以後、
右側のカップルとは会話が弾むこととなった。
もっとも左側はわれわれの入店後、
すぐに退出していったがネ。

肝心の焼き鳥はいずれもハズレがない。
そうでなければ、帰国している友人を誘いはしない。
現に相方は続々と出て来る串々を次々に
嬉々として平らげている。
あたかもカイバをむさぼるサラブレッドの如くに―。

=つづく=