2019年9月13日金曜日

第2219話 穴子がイノチの季節の天丼

今年のお盆前、
浅草の「多から家」で穴子が主役を張る、
江戸前天丼を賞味したばかりだというのに
再び穴子が恋しくなった。

ここで思い起こすのは2年前の夏。
たまたま土用丑の日に当たり、急遽うな重を、
数日後に仕切り直して舞い戻り、
季節の天丼をいただいた元浅草の「天三」だ。

最寄り駅は東京メトロ銀座線・稲荷町だが
上野から浅草通りを東へ歩いて行った。
道路の両脇のまばらな並木は百日紅(さるすべり)
盛夏の落とし子ともいえる木々が
燃え立つようなショッキング・ピンクの花をつけていた。
猿のおケツより鮮やかな色合いである。

中にはピンクではない真紅の花弁もあって
あれっ、こんな色があったかな? 
意外だったが真紅どころか、白いのすらあるらしい。
そして、すべすべツルツルの樹皮が
猿をも滑らせるので付いた名前にもかかわらず、
猿はスルスル登ってしまうそうだ。
フフ、まったくもって敵はサル者、引っ掻く者よのぉ。

老夫婦におそらく倅の3人体制は相変わらず。
穴子の有無を確認のうえ、
この日も迷わず季節の天丼(1300円)を発注する。
待つこと10分足らずで配膳されたが
何となく2年前の陣容とは違う眺めだ。
帰宅後にチェックしたら、やはり微妙な変化あり。
見くらべてみよう。

’17年8月上旬
穴子丸1本 海老2尾 きす1尾 なす いんげん ヤングコーン

’19年8月下旬
穴子丸1本 海老2尾 なす しし唐 オクラ ズッキーニ

今回は何といっても、きすの不在が痛い。
オーセンティックな江戸前天丼に野菜類は使われぬが
店として季節の天丼と謳えば、
客として野菜の参加を拒否できない。

硬めに炊かれたごはんに色は濃くともあっさりめの丼つゆ。
味噌椀・たくあん・きゅうりもみ・サラダも以前と変わらず。
海老に魅力をまったく感じないため、
この天丼のイノチも「多から家」の江戸前同様、穴子に尽きる。

あとから入店してきた近隣のサラリーマンたちには
各1080円のかき揚げ丼と
天丼(海老・きす・いか・小かき揚げ)の人気が高い。
金3000円也のうな重に手を出す輩は皆無だ。
天ぷらにせよ鮨にせよ、若年層にも穴子の魅力を知ってほしい。
香港の未来ともども、穴子の将来を案ずるJ.C.でありまする。

「天三」
 東京都台東区元浅草2-8-8
 03-3842-6464