2019年9月26日木曜日

第2228話 区をながれゆく (その4)

汗を拭きふき、やって来たのは葛飾区・新小岩。
またもや総武線を1駅歩いたことになる。
平井大橋を渡ったので
江戸川区から葛飾区にながれ込んだわけだ。

この町には「魚三酒場 新小岩店」がある。
旗艦店を門前仲町に構える「魚三」は
森下の常盤店を加えて都内に3店。
門仲みたいにおっかないオバさんがいないぶん、
森下と新小岩は酒場放浪初心者にも
女子のみグループにも、さほど敷居が高くない。
それでも弱みを見せたら、そこそこイジクられるけどネ。
 
たいした距離じゃなくとも摂氏30度超えを歩けば、
欲するのはビール、ビール、生ビール。
「生ちょうだい!」-
オバちゃんにうっかりサイズの指定を忘れたら
ド~ンと大ジョッキが来た。
まあ、いいでしょう、いいでしょう。
生大なんかお茶の子さいさいながら
ここは1杯だけにしておきましょう。
 
短冊に新さんまの刺身(480円)を見つけ、即注文。
記録的な不漁続きのさんまは今秋初めて。
身はやせ細り、脂のノリも悪いらしいが
はたしてどんなのが現れることであろう。
 
三枚におろされたさんまは小骨ものぞかれ、
ブルー&シルバーの淡い光沢を帯びていた。
左端の一切れにおろし生姜をチョンと乗せ、
生醤油をチョイとつけ、おもむろに口元へと運ぶ。
 
ん? んん・・・ん?
何だ、なんだ! うっま~いじゃないか!
プリッと締まった身肉に臭みなんか寸分もナシ。
一瞬、歯を押し返す弾力が鮮度の高さを裏づける。
確かに脂肪をまとってはいない。
だが、だからこその爽快感に満ちている。
まったくもって予想だにしない美味であった。
 
女人に例えれば、
脂ノリノリのさんまが色香まみれの大年増なら
さしづめこちらは番茶も出花の生娘だ。
酢〆を省いた青背のサカナを食べないJ.C.が
不漁さんまの容態いかばかりかと
興味本位で通した注文はまさしく瓢箪から駒。
いやはや、おそれ入りやした。
 
よっぽどお替わりと思ったものの、
あまり行儀のいい所業じゃないし、
たぶん途中で飽きること必定。
”過ぎたるは及ばざるが如し”の諺もあることだ。
滞空時間20分の勘定は1200円也。
あてなどなくとも、とにかく先を急ぎましょうぞ。
 
=つづく=
 
「魚三酒場 新小岩店」
 東京都葛飾区新小岩2-10-7
 03-3655-7295