2019年9月17日火曜日

第2221話 肴はあぶった イカにした (その2)

港区・田町のJR駅前。
森永製菓創業75年を祝し、
グループの総本山として1974年に竣工した本社ビルは
当時、日本で5番目に高い建物だったそうな。

その地下のエンゼル街にある日本そば屋「謙徳」。
カウンターがないから
4人掛けのテーブルにくつろいでいる。
さすがに安くはないお通し、数の子とそば寿司は
ビールの良き合いの手となってくれた。

さて、何にしようかな?
にしん煮と迷いながら所望したのはイカの一夜干しだ。
1枚840円で半身なら520円。
多少割高でもここは半身、1枚食ったらイヤになる。
おっと、八代亜紀が歌い始めた。

♪  お酒はぬるめの 燗がいい
 肴はあぶった イカでいい ♪

J.C.の場合。

♪  お酒はつめたい 麦がいい
 肴はあぶった イカでいい ♪

ところがこの一夜干し、いつまで待っても出てこない。
今度はキャンディーズの歌声が耳にこだまする。

♪ ハートのエースが 出てこない ♪

とうとうビールがなくなっちゃったヨ。
イラサマセ~娘に催促ではなく、
注文品がちゃんと通ったかどうか確認すると
「時間かか~ります!」との仰せ。
彼女に落ち度があるはずもなく、
ここはビールをお替わりし、待ちの一手に徹する。

結局、20分以上経過してあぶられたイカが来た。
身の厚いスルメイカは上々である。
うむ、うむ、肴は厚めのイカがいい。
スルメイカといってもアタリメのスルメではない。
いわゆる真イカと呼ばれるものだ。

すると、くだんの娘が戻り来たりて
テーブルに小鉢を置くじゃないか。
てっきり誤配と信じ、あどけない顔を見上げると
「どうぞ!」の一言。
長いこと待たせたのでサービスしてくれたのだった。
鉢には見た目よろしき、ぬか漬けが盛られている。
大根・きゅうり・にんじんが色とりどりでけっこうな量。
ほどよい浅漬けは古漬け嫌いに願ったり叶ったり。
まことにに美味しゅうございました。

いやはや出の遅いイカを待ったからこそのご褒美で
世の中、何が幸いするか知れたものではないっちゅネ。
まさに”禍福はあざなえる縄の如し”。
気をよくして歩き始めた、
午後の陽射しの日比谷通りでありました。

「謙徳 エンゼル店」
 東京都港区芝5-33-1
 03-3454-0681