2019年12月6日金曜日

第2279話 散髪すんで日が暮れて (その1)

所用時間40分で髪を整え、
向かったのはわが身にまず縁のない街、原宿。
竹下口を出て坂道を北に降りてゆく。
近々、取り壊される皇室専用駅方面だ。
大通りを外れると、ほとんど真っ暗、
それでも「アンセーニュ・ダングル」を闇の中に発見した。

ここに来たわけは読者・G田サンからの一報。
サテンに目覚めたJ.C.のため、
必訪の1軒として推奨を受けたのだった。
傘立てにビニール傘を差し込み、カウンターの中ほどへ。
すみやかにブレンドを所望した。

コーヒーを待つ間、周りに気づかれぬよう、
静かに振り向いて店内を見渡す。
フロアはテーブルの間隔をゆったり保っている。
コーナーに一段低いスポットがあったりして
下北の「トロワ・シャンブル」に似た造りだ。

店主から差し出されたブレンドは深煎りの好きなタイプ。
惜しむらくはちょいとヌルい。
これはたまたまではなく、造り手が意図するところだろう。
途中からザラメとクリームを加えて味わった。

ジャズが流れているものの、
曲名、プレイヤーともに皆目判らない。
しっかし、喫茶店ってのは手持無沙汰ぞなもし。
スタンドの淡い光のもと、ガラケーでコレを打っている。
ハイ、ここで自宅のPCに送信。

滞空10分での会計は660円。
その際、マスターに店名の意味を訊ねた。
仏語で”角の看板”だそうだ。
自由ヶ丘店に居るオーナーは
「バルビゾン」にしたかったが
近所に同名のブティックがあり、断念したとのこと。

裏道を歩いて表参道方面へ。
避けるつもりの竹下通りに迷い込んでしまう。
生き地獄のようなこの通りに
足を踏み入れるのは20年ぶりだ。

物販・飲食ともにワケの判らん店が立ち並び、
中国語・英語・スペイン語が飛び交っている。
ただでさえ人の流れが淀むのに
この夜は傘、アンブレラ、パラプリュイの花咲きまくり。
多くのバカ者、もとい、若者の手には
タピオカドリンクときたもんだ。
タピラーだらけのストリート、オラ、こんなとこイヤだァ!
こうして1杯のコーヒーから夜はどんどん悪い方向へ—。

=つづく=

「アンセーニュ ダングル 原宿店」
 東京都渋谷区千駄ヶ谷3-61-11
 03-3405-4482