2019年12月27日金曜日

第2294話 師走の玉ノ井 (その1)

霜月に都の西方、武蔵関&井荻を食べ飲み歩いた、
さんとも・O戸サンと二人忘年会。
舞台は永井荷風&滝田ゆうが綴り描いた旧寺島町。
ここは墨東、墨田区・玉ノ井だ。
気心の知れた人物との酌交は
せわしない師走の日々にゆとりをもたらす。

北千住で乗り換えた東武伊勢崎線、
通称・スカイツリーラインの東向島(旧玉ノ井)駅に
降り立ったのは数年ぶりのこと。
1987年に駅名が変更された経緯は
何度か書いたから省きたい。

玉ノ井のメインストリート、いろは通りから
ちょいと入ったイタめし屋「カトリカ」へ。
初老の夫婦が営むピッツァ&パスタの小さな店だ。
スーパードライの小瓶で年忘れの乾杯。
相方が択んだアンチョヴィのピッツァに続き、
当方がパスタを注文しようとした矢先、
壁に掲げられたボード、”本日の料理”に視線を奪われた。

真っ先に記された一品は”プンタレッタ”。
いや、わが目を疑ったネ。
そこからだいぶ下がって”うさぎの煮もの”にも瞠目した。
前者は明らかにプンタレッラの書き違いか勘違い。
イタリア料理のシェフとしては少々恥ずかしい。
後者にしても”煮もの”はあんまりだろう。
大根やかぼちゃじゃあるまいし、ここは煮込みとしたい。

知識の曖昧さ及び、センスのなさは
客のヘジテイションを誘うものの、
マイ・フェイヴァリットを
2皿並べて突きつけられたひにゃ抗うすべはない。
パスタなんか食ってる場合じゃなくなった。
訊ねると、すべての料理がランチタイムも提供可能。
歓び勇んだJ.C,、即刻オーダーに及んだ。

ピッツァは水準を超えていた。
ローマの冬の風物詩にして
ローマっ子が愛するプンタレッラのサラダは文句無し。
本場では中心部をていねいに細く裂いたりするが
当店は緑の葉まで丸ごと皿に乗せてきた。
いや、日本で極上の葉野菜をたっぷり食べられるとは—。
うさぎトマト煮も合格点。
チキンの肉質と似て異なる、
コニッリオ(仔うさぎ)の個性が引き出されていた。

難点はただ一つ、切り盛りする夫婦から
温もりがまったく伝わってこないこと。
それどころか、”婦”からは冷たい風が吹いて来る。
初訪につき、一概に決めつけられないけれど、
料理はよくても客あしらいがあまりにお粗末。
お歳がお歳だけに大きな改善はもう見込めまい。
そこが残念な「カトリカ」でありました。

=つづく=

「カトリカ」
 東京都墨田区東向島5-26-5
 03-3618-6747