2019年12月23日月曜日

第2290話 或る日突然 (その2)

思い出話に花が咲く大井町の酒場。
何よりもうれしかったのは上手に年齢を重ねて
イカした女になってくれてたこと。
再び胸を撫でおろすJ.C.でした
 
別段、好きでもない牛タンはどうでもいいんだが
一応、寸評しておくと、
マイルドな仔牛ではなく、厚切りの成牛に軍配。
 ただし、275円+税のお通しも牛タンの切れ端ってのは
廃品利用とまでは言わないが、さすがにシラケる。
ほかにビール中瓶1本、塩レモンサワー4杯で
5500円の会計も割高感否めぬ「牛タン いろ葉」だ。
 
いろんなことがあった二人だが
極めつけは弥次さん・喜多さんさながらの珍道中。
これも28年前のことで、相方は里帰り、
当方はホームリーヴ、互いに帰国中の身だった。
その機会を利用して企てたのがシンガポール旅行である。
 
故郷・広島から来る相棒を待ち受けた羽田。
空港ロビーで落ち合った際の第一声が今もよみがえる。
「パスポート忘れちゃった!」
「ハア~ッ?!」
キレはしないがアキレたJ.C.、公衆の面前に
間抜けたツラをさらしていたに違いない。

空港でケンカなどしてる場合じゃないし、
何か手立てはないものか・・・なけなしの知恵を搾る。
すると・・・いや、あるもんですな。
火事場の馬鹿ぢからはよく耳にするが
窮場の好しのぎってのもありやした。
 
妹が実家に在宅中と聞いて即、電話を掛けさせる。
ケータイなんかまだない時代、もちろん公衆電話だ。
ここで大活躍したのが妹ぎみだった。
姉のパスポートを胸に抱いて彼女は広島空港へとひた走る。
 
J.C.が出した指令は
空港で真面目そうなビジネスマンを探すこと。
むろん、スーツ&タイが望ましい。
できれば名前を訊き出して
彼にパスポートを預けたら、かくかくしかじか。
羽田でカップルが待ち受けてるので
手渡しよろしくお願いします、というものだ。
 
妹から伝わった運び屋サンの名を記憶して
お礼の品を購入し、待機すること1時間半あまり。
やって来ました救いの神。
航空機とターミナルを結ぶバスから
先頭切って飛び降りるや、われわれの元へ一目散。
こちらは平身低頭しながらも
旅券と粗品は無事、交換されたのでした。
何だか忘れたけれど、その粗品が
東京ばな奈でなかったことは確かであります。
 
=つづく=

「牛タン いろ葉」
 東京都品川区東大井5-3-13
 03-6712-8366