2019年12月20日金曜日

第2289話 或る日突然 (その1)

或る日突然、舞い込んだ1通のEメール。
四半世紀も前に別れた、
ニューヨーク時代の恋人からだった。
どこかで「生きる歓び」に出くわした様子で
ある意味、これもSNSのご利益なのだろう。
ここでトワ・エ・モワにはご登場願わない。
ハナシが長くなるから紙面を節約せねば―。

旧交を温めるため、1杯飲る運びとなった。
互いの住まいのほぼ中間点、大井町で逢うことに―。
東急大井町線側の東口で待合せる。
駅前東小路なら休日でも店の選択肢は広い。

問題はただ一点。
長い年月を経て容姿の変貌は
想定の範囲を越えているやもしれぬ。
目視では認知不可能かもしれない。

定刻に到着すると乗降客の少ない東口改札は
日曜ということもあり、閑散を極めていた。
しばらくして気づいたのは背を向ける独りの女性。
改札脇に立って構内を見つめているため、
後ろ姿しか見えないが
どこにでもいる小太りのオバちゃんだ。
オバちゃんには失礼ながら
いやまさか、こんなんじゃなかったヨな、
そう思いつつも心のうちで黒雲が湧き上がった。

不安のあまり、背後1メートルに接近しても
正面はおろか、横顔すら確認できない。
もしもこのオバちゃんが本人だったら
このままトンヅラしちまおうかな・・・と思った矢先、
プラットフォームから上がって来た、
もう一人のオバちゃんと互いに手を振り出した。
やれやれ、ホッと胸を撫でおろしたJ.C.。

あとでこのハナシをすると、
先方もクサリで胸からガラケーを
ぶら下げたオッサンが現れたら
雲隠れしようと企んでいたらしい。

とにかく再会をはたしてハグである。
それもおざなりなヤツでなく固い抱擁だ。
これはノロけでも何でもなく、
かつてのGFに28年ぶりで逢ってごらんなさい。
憎み合って別れた仲でもなきゃ当然の帰結。
ナチュラル・リアクションなのである。

とるものもとりあえず、
東小路入口の「牛タン いろ葉」へ。
カウンターに横並び、ビールのグラスを合わせる。
目の前のアンちゃんが注文を急かせるので
(ウルセえな、すっこんでろ!)
とも言えずに厚切り牛タンと仔牛の牛タンを通した。

=つづく=