2020年1月2日木曜日

第2298話 年の瀬の柴又 (その2)

葛飾・柴又の経栄山 題経寺、人呼んで帝釈天。
その参道に入ってすぐ、天丼が看板の大和家」に入店。
1885 年創業、大老舗の店頭に胡麻油の香りが漂っている。
奥へ進み、ストーヴそばのテーブルに着く。
ビールの銘柄はキリンとアサヒの二刀流。
いつものヤツを抜刀ならぬ、抜栓してもらい、
Fチャンとは令和元年最後の晩酌が始まった。

注文品はハナから決めていた並天丼(998円)を二つ。
ビールと一緒に出て来たしば漬けは
ビールのアテなのか天丼のお供なのか判断しかねた。
どんぶりに君臨したのは海老・キス・ししとうの3点。
魚介はそこそこのサイズで
ししとうはオマケみたいなものだ。

とにかく丼つゆの色が濃く、ほとんど真っ黒である。
わが人生で食べてきた数多の天丼のうち、最も黒い。
創業当時かどうか判らぬが、かなり昔から
継ぎ足し、継ぎ足しで使ってきたものと思われる。
味わい深いコクがあった。

最初にキスをパクリとやると、コロモの食感が独特。
サクサクを超えてサックンサックン、てな感じ。
これも丼つゆ同様、他店とはまったく異なるタイプだ。
ごはんの量少なめは、このあと草だんごに誘うためか?

美味しくいただき、帳場に向かうと店主が脇に座っている。
目が合ったので言葉を交わす。
当店は創業200年を経て
自分は半分の100年天ぷらを揚げ続けてきたとのたまう。
ずいぶん吹っ掛けたものよのぉと、
こちらはあきれながらも素直に驚いてみせてあげた。
傍らの倅が実際は90歳と耳打ちしてくれた。
ハハハ、ほら吹き爺さんめっ!

数日後、どのチャンネルだったか
夜のニュース番組を観ていたら
山田洋次監督がテレビ局の女子アナと
「大和家」店頭に現れた。
店主とは旧知の仲で握手を交わし、談笑している。
いや、90歳と88歳の握手なんて簡単には見られやせんぜ。
そう言やあ、店内に山田監督の一筆があった。

旅に出て想う 故郷柴又
懐かしい大和家の 天ぷらの味

だったかな? 記憶は定かでない

その足でわれわれは柴又街道を北へゆく。
柴又は飲み処に乏しいからネ。
ちょうど2年半前、駅前広場の「春」で
昼飲みを楽しんだが現在そこは更地。
何でも京成電鉄がプチ駅前ビルを建てるそうな。
「春」はそれまでの間、近所で仮営業を続けている。
此度は立ち寄らず、目指したのは隣りの金町だった。

=つづく=

「大和家」
 東京都葛飾区柴又7-7-4
 03-3657-6492