2020年1月15日水曜日

第2307話 大陸から 半島から (その2)

荒川区・三ノ輪橋のカラオケ居酒屋、
「海月(みつき)」の止まり木に止まっている。
客入りは9割に近く煙草の匂いが鼻をつくが
スモーカーにやさしいノンスモーカーにつき、
さほど気にならない。
ビールは生がサッポロ、瓶はアサヒ。
スーパードライの中瓶を所望した。

営むのは女性二人でまだお若い。
注文を取ってくれた背の高いほうは
言葉の訛りからしてチャイニーズ、おそらく大陸だろう。
お酌をしてくれて、お通し(300円)を置いていった。

ん? このお通しが実に端正だ。
一見して筑前煮(がめ煮)と判る。
素材を検証すると、
たけのこ・にんじん・ごぼう・れんこん・こんにゃく。
それぞれの切り口が丁寧にして綺麗。
見ただけで、味悪からんことを確信する。
本来の筑前煮は鶏肉必須だが菜食に徹するのもまたよし。

うむ、ウム、なかなかだ。
下手な居酒屋の愚にもつかぬお通しには
裸足で逃げ出してもらいたい。
こういうのなら、有料おおいにけっこう

調理担当はもう片方の女性だが、
包丁、味つけとも秀にして逸、このヒトはデキる。
どこぞの板場で修業したのかもしれない。
たぶんこちらがママだろう。

彼女がそばに来たとき、訊いてみた。
「これはアナタが作ったの?」
「そですヨ」
ん? ホンのちょっと訛りがあった。
「中国の人? どこの出身?」
「ハイ、香港の近くです」
「広州かな?」
「深圳でっす」
こりゃ、驚いた。
味つけもさることながら
あの包丁は和食の経験がなければ難しい。

あらためて壁の品書きをつぶさに再見すると、
本格的なものはなくとも、そこそこの品揃え。
ここはスナックではなく居酒屋である。
重い料理は避けて通りたい。
赤いのが出てくるものと、焼ウインナーをお願いした。

すると・・・確かに赤いのは出てきた。
それも小皿で―。
大皿には太めのソーセージが3本。
ウインナーとフランクフルターの中間サイズに
黒胡椒が振りかかっている。
小皿の赤いのはトマトケチャップなのでした。

=つづく=