2020年1月9日木曜日

第2303話 しば柴 又また (その4)

葛飾・柴又をあとにして江戸川・小岩は
「一力」のカウンターでオッサン3人の会話が弾む。
今は昔、仁丹塔が雷門と並ぶ、
エンコのランドマークタワーだった頃のハナシ。

「仁丹塔があった場所の右側に今も交番があるでしょ?
 その角から西に向かう菊水通り、判るかな?」-
ハナシを振ると、二番手応えて
「うん、うん、ありますネ」
「通りに名を残す『菊水道場』って焼きとん屋覚えてる?」
訊ねたら再び二番手。
「エエーッ!『菊水』ならこちらサンです」
目を見開いて左手のオジさんを指さした。

何のこっちゃい? 瞬時に飲みこめなかったが
オジさんは「菊水」の経営者だったとのこと。
まさかァ~、いくら何でもそんなァ・・・
ハナシが出来すぎちゃあ、いないかい?

ところがこれは事実だった。
今は無き浅草「菊水」には
小岩にこれもまた今は無い系列店があったのだ。
そこのオヤジがオジさんで浅草とは縁戚筋とのこと。
いや、びっくりしたなもぉ!
ひとしきり、会話に”菊”の花が咲いたのでした。

すっかり出来上がった菊オジさんが帰ったあと、
つくねをタレで追加して、お勘定は1800円ほど。
ツリ銭を受け取らなかった菊オジさんに倣い、
当方もいきがってオツリを返上した。
ん? 庶民がムリするな!ってか? ハイ、ごもっとも。

栃錦像の前に戻り、総武線に乗ったはいいが
行く先はまだ定まらぬ。
電車に揺られながら思いついた。
せっかくだから相方に国技館でも見せてやろうか―。
これも建設に尽力した春日野親方こと、栃錦のお導き。
両国駅のプラットフォームから闇に包まれた国技館を仰ぐ。

都営地下鉄・大江戸線で隣りの森下に移動し、
高橋(たかばし)のらくろード商店街の「鳥長」へ―。
カウンターを希望したものの、座れず2階へ通された。
令和元年も余すところ数日になり、
忘年会はピークを過ぎたのに店内は大賑わいである。

サッポロ赤星とレモンサワーのグラスを合わせた。
つまみは平目の薄造り、帆立のバタ焼き。
ともに特筆することとてなく、ごくごくフツー。
さっき食べたばかりの焼きとんを見つけ、
比べたい気もしてシロとレバをタレ、
ついでに焼き鳥の正肉を塩で―。
豚は「一力」に比べるべくもなく
屋号に”鳥”を冠するだけあって、鳥のほうがよかった。

大江戸線で上野御徒町にやって来た。
夜も更けて佳店はみな店仕舞い。
チェーン居酒屋でおチャならぬ、
おチャケを濁すことしばし。
相方を上野駅に送り、それじゃまた来年と手を振った。

=おしまい=

「一力」
 東京都江戸川区南小岩8-8-6
 03-3672-4129

「鳥長」
 東京都江東区高橋9-4
 03-3633-0656