2020年1月17日金曜日

第2309話 帰宅しないで 北区でラーメン

都営荒川線に揺られている。
そこそこ飲んだから町屋で千代田線に乗り換え、
帰宅してもよかったが、まだ浅い時間帯。
町屋から11駅も先の北区・王子まで行っちゃった。
この間、呑み助を吸収する繁華な町は一つもない。

王子には目当ての店が2軒あり、
ダメ元で向かったものの、やはりダメだった。
「山田屋」も「宝泉」も扉を閉ざしていた。
まだ正月の三日だものな。

荒川線だと、次に続く繁華街は巣鴨。
とげぬき地蔵を擁する巣鴨なら
参詣客狙いの店がいくらでも開いているだろう。
待て、待て、王子はプチ・ターミナル駅、
移動先の選択肢は広い。

そんなことを考えつつ、駅まで戻る道すがら
暗闇に点る灯りはラーメン店「八重桜」だ。
通常は看過するところ、品書きの一品に興味が湧いた。
その名もオマール海老ラーメン(1050円)。
酔いも手伝って、ああだこうだと
わずらうヒマもあらばこそ、即刻入店。
食券機に限定品とあり、スタッフに有無を訊ねると
まだ残ってると聞いて、ポチッ!

のちに判ったことながら店のルーツは足立区にあり、
海老出汁ラーメンが名物らしい。
これもあとで知ったが尾久から王子にかけて
界隈は富士丸だの、富士松だの、竹千代だの、
艶っぽい名前のラーメン屋が目白押しだ。
エリア全体が三業地の芸者置屋の如し。

王子では狙った店に肩透かしを食らい、
これも何かのお導きと判じ、アルコールを自重した。
推察した通り、オマール海老ラーメンに
オマール海老の姿はない。
代わりに甲殻類特有の香りが立ち上がる。
むせ返るというほどではないが濃厚な匂いだ。

2種類のチャーシューが1切れづつ。
ロースの薄切りに
バラの厚切りのほうは煮豚の炙り返し。
中太麺は粉々感強く、太いシナチクとともに歯応え強し。
こりゃ、入れ歯の爺さんはお手上げだろう。

特筆はクリーミーなスープだ。
仏料理のソース、アルモリケーヌに限りなく近い。
アメリケーヌと混同されるけれど、
実際はまったく同じソース。
J.C.はオマール海老の産地・ブルターニュの古名、
アルモリケーヌを意識して使用する。

願わくば、このラーメンの脇に焼き立てのバゲットと
少々のエシレ・バターがあったら最高。
入れ歯の爺さんとは違った意味で降参のお手上げざんす。

 「八重桜」
 東京都北区1-15-5
 03-3912-1988