2020年2月6日木曜日

第2323話 魔が射して新宿三丁目 (その2)

新宿三丁目には中学生の頃から出入りしている。
さすがに晩酌ではなく、映画を観にやって来た。
伊勢丹の南側にあったビル階上の新宿地球座。
東側の地下にあったシネマ新宿。
半世紀以上も前のことだ。

さて「上燗屋 富久」のカウンター。
二人の女性スタッフは年恰好が同じで
大柄が料理、小柄は酒&接客、上手く分担されている。
J.C.の目の前には小柄とおでん鍋。
買い物だろうか料理担当が外出したとき、
「出てった彼女、ミッツ・マングローブそっくりだネ」
酒担当は微笑みながらも人差し指を唇に立てて
「言っちゃダメよ、気を悪くするから―」
ハイ、承知。

おでんの前に何か一品欲しくて品書きを吟味。
白子ポン酢、鯨ベーコンなどが並んでいる。
うなぎ有馬煮に惹かれ、
「有馬煮ってことは山椒が効いてるの?」
「ええ、実山椒たっぷりです」
迷わず発注に及んだ。

ホントだ、山椒の実がこれでもかと散りばめられている。
オマケにSBの粉山椒まで出てきたヨ。
本物がふんだんに使われてるのに
粉末は要らんだろう、せめてやげん堀ならともかく―。
そう思いながら試しに少々振りかけてみたら
意外とこれが効果的、実と粉では役割が微妙に違うんだ。

和歌山の清酒、日本城の上撰をつけてもらう。
「上燗屋だから、お燗は上燗だよネ?」
上燗とはぬる燗と熱燗の中間である。
すると、意外な答えが返ってきた。
「何でも昔、上燗屋は居酒屋のことだったらしいですヨ」
ふむ、そういやあ、聞いたことがあるな。
豆腐やこんにゃくの田楽をつまみに
燗酒を飲ませた行商人を上燗屋と呼んだと―。
日本城は上燗にしちゃ、ぬるかったが辛口でまずまず。

おでんを所望して、最初は魚のスジ&糸こん。
ちなみに当店は関西風の牛スジをやらない。
糸こんは細くて白滝と変わるところがない。
おでん種そのものを出汁の旨さが凌駕している。

続いてロールキャベツ&つみれ。
キャベツがやさしい味わい。
色黒のつみれはいわしの個性が発揮されている。
同じ日本城を今度は純米の常温で―。

彼女たちの人柄だろうか、客あしらいもサラリとして
いい雰囲気の飲み処である。
客が続々と入店して来た。
そろそろおいとましよう。
勘定は5千円とちょっとで、なじみになりたい店ながら
新宿三丁目というロケーションが
障害として立ちはだかっているわけであります。

「上燗屋 富久」
 東京都新宿区新宿3-12-4
 03-3350-6729