2020年2月20日木曜日

第2333話 変わり果てたるビーフカツ (その1)

建国記念の祝日。
書き物を済ませ、昼過ぎに家を出た。
寝不足で頭が重い。
何せ、ウチのバカ猫がよりによって真夜中に
季節外れの独り運動会を催しやがったものだから
太平の眠りを覚まされたのだ。

それでも気分は日本橋人形町あたりの洋食屋で
ビールを飲みながらゆるりと過ごしたい感じ。
東京メトロ半蔵門線・水天宮前で下車し、
甘酒横丁にやって来た。

あいにく「来福亭」も「小春軒」も休み。
それではと「そよいち」に回る。
同じ人形町の老舗「キラク」と故あって袂を分かった店だ。
いつの間にか”酒の友メニュー”を提供しており、
名代のビーフカツもポークソテーも
ハーフポーションでの注文が可能となっていた。

店頭でメニューに見入っているうち、
次から次と客が入店してゆき、
遅ればせながら続いてみれば、すでに8人ほどが
ウェイティング・コーナーに群れていた。

負け犬は尻尾を巻くほかに手立てなく、
甘酒横丁の北側に回る。
あれっ! こんなところに「芳味亭」が移転してるヨ。
ここも待ち客10人近くだが当店は単身者に向かない。

通りすがった「志乃多寿司総本店」の店先にたたずむ。
季節商品、鰤と千枚漬の押し寿司が目に飛び込んだ。
瞬時に二つの寿司が脳裏に浮かぶ。
一つは富山名物、
ますのすし本舗 源」調製のぶりのすし。
そしてもう一つはかつて京都にあった、
「松鮨」のスペシャリテで千枚漬使用の鮨、川千鳥。
8切れ入りが税込み1404円、迷わず買い求めた。

昭和の酔っ払いの定番みやげよろしく、
折詰をぶら下げて「キラク」にやって来た。
実に13年ぶりの訪れである。
時刻も13時、先客はヤングカップル1組だけと淋しい。
L字形カウンターは縦7・横3の10席。
横の真ん中に座り、接客の女性に問い掛ける。
「端にずれたほうがいいかしら?」
「この時間ですから大丈夫ですヨ」

ビールの銘柄はプレモルとのことで
ここは見送らざるを得ず、
落胆しながらメニューを手に取った。

=つづく=