2020年2月13日木曜日

第2328話 伊那は幡ヶ谷 鳥焼く煙り

♪   影かやなぎか 勘太郎さんか
  伊那は七谷 糸ひく煙り
  棄てて別れた 故郷の月に
  しのぶ今宵の ほととぎす  ♪
    (作詞:佐伯孝夫)

平壌出身のコリアン歌手・小畑実が歌った、
「勘太郎月夜唄」は1943年公開の東宝映画、
「伊那節仁義―伊那の勘太郎」の主題歌。
世は太平洋戦争真っただ中だ。

やくざを主人公に据えた股旅モノを
時の軍政が認可したのには理由があった。
有名な逸話が残っているので
興味ある方はググッてみてください。

それはそれとしてオッサン二人がエッチラオッチラ、
幡ヶ谷駅そばの「のっこい」にやって来たら
店のシャッターは固く閉ざされていた。
おかしいな、臨時休業かいな?
よくよく見るとシャッターに貼られた休業日の報せに
日曜・祝日に加え、第一土曜も明記されていた。
思い起こせば一昨年8月、
この顔ぶれでこの店で酌交に及んだのだった。

それではと甲州街道を北に渡り、向かった「こまい」だが
こちらは今晩、予約でいっぱいとのこと。
再びそれではと近所の「魚貞」に
きびすを返そうとしたそのとき、
「こまい」に隣接する店舗の袖看板が目に入る。
「鳥伊那」とあった。

これだけで当店は焼き鳥屋にして
店主が南信・伊那の出身であることが容易に推察できた。
北と南の違いはあれど、J.C.とて信州・信濃の出生。
予備知識もないまま「いてまえ!」とばかり突入した。

カウンターだけの小体な店は
幸いにも入口近くの2席が空いており、すんなり座れた。
炭火使用の焼き場の前に張りつく焼き手は女将さん。
ちょうど横顔が見える位置で
のちほど訊ねたら彼女が飯田の出身。
伊那市の南隣りが飯田市である。

サッポロ赤星と喜久水の常温で本日二度目の乾杯。
喜久水は飯田市に本拠を構える喜久水酒造の看板商品だ。
さっそく焼いてもらったのは
ハツとゴンボ(ボンジリ)を塩、レバはタレで―。
こちらも喜久水に移行し、盃を重ねに重ねる。
もも肉と鴨ねぎを塩、ハツモトをタレで追加しながら
その後は喜久水を燗でいただく。

そのうち左隣りの熟年カップルと
どちらともなく言葉を交わし始めた。
何でも二人は数年前に別れた元ご夫婦ながら
月に一度はこうして淫行を、もとい飲交を続けている由。
いいじゃないッスか、素敵な関係じゃないッスか―。
いやはや、会話が弾むと酒量も一気に上がる。
銚子を何本お替わりしたことだろう。
ふと焼き場を見やると、鳥焼く煙りが立ち上っておりました。

「鳥伊那」
 東京都渋谷区幡ヶ谷2-7-6
 03-3377-0963