2024年8月30日金曜日

第3613話 安部公房の世界

本日は渋谷で映画。
この春、「キエフ裁判」と
「青春を返せ」を観たユーロスペースの
階上にあるシネマヴェーラへ。
特集は
「生誕百年記念 シネアスト安部公房」

2本続けて観た。
ともに脚本が安部公房である。
1本目は「燃えつきた地図」(1968)。
四半世紀前に1度観ているが
ほとんど忘れていて市原悦子の
ヌード・シーンだけが記憶に残っている。

監督は勅使河原宏。
演ずるは勝新太郎、市原悦子、渥美清。
勝プロダクションの製作だ。
名優が "3人寄れば文殊の演技"。
殊に市原悦子の存在感が際立つ。
スゴい女優さんだネ、この人はー。
武満徹の音楽も強い印象を残す。

不条理劇というか、実験的映像というか、
安部公房を理解するのは
一筋縄ではいかない。

2本目が「壁あつき部屋」(1956)で
舞台は巣鴨プリズンと来たもんだ。
BC級戦犯、同房6人の運命が描かれる。
初めて知ったことながら
A級戦犯は戦勝国・アメリカとの取引で
不合理に釈放され、
官・民の要職に就く者少なからず。

悲惨なのはBC級だ。
全員釈放に至るまで13年の歳月を要し、
その間、驚くべきことに全5700人中、
何と920人もが処刑された。
ほかに自殺者や精神を犯された者多数。
いつの世も一番悪い奴ほど
巧妙に逃れてはほくそ笑んでいる。

監督は小林正樹。
配役は、浜田寅彦、三島耕、三井弘次、
伊藤雄之助、信欣三の面々。
紅一点は岸恵子で
清純な娘が苦界に身を沈めることとなる。

小林正樹が執念で撮り上げた力作は
アメリカ当局への配慮から
公開まで3年の月日を要した。

「砂の女」「他人の顔」など、
当時話題となった作品が並ぶ特集は
先週末、幕を閉じた。
今宵は渋谷で晩酌とまいります。

2024年8月29日木曜日

第3612話 2年ぶりの「美家古寿司」(その2)

浅草の有形文化財(?)、
「弁天山美家古寿司」のつけ台に2人。
寡黙な J.C.がいつになく饒舌になっている。

「そんとき5代目は常連さんの
 折詰かなんか作っててネ。
 それを見た4代目、
 『また悪戯してやがる』と一言。
 懐かしいなァ」

北寄貝と赤貝のシェル・ブラザースが
目の前のゲタに着地した。
それから平貝、蒸しあわびと続く。

お次は蝦蛄と車海老。
車寅次郎には妹のさくらにも似た、
桜色のおぼろがカマせてある。
このサポートがたまりません。

日本酒に切り替える。
5種類ほど並ぶ冷酒から
常連だった中尾彬サン推奨の伝心を
故人に敬意を表してお願いした。
福井は奥越前・勝山の産である。

すずき、しまあじ、酢あじ、かつお。
普段はこんなに食べないのに
当店だけは別、鮨の入れ食い状態だ。

相方はするめいかの煮いか。
当方はそのエンペラが目に入り、
所望するとエンペラはにぎれないんで
つまみにしてもらった。

「美家古」のマイ・ベスト、穴子は2カン。
シモを煮切り、カミを煮つめでリクエスト。
東京一の穴子が此処にある。

いつもは玉子とおぼろ巻で締めるのだが
すでに腹十二分目、口惜しくも断念した。
お勘定は3万5千円也。
ごちそうさまでした。

せっかくの浅草だ、
「神谷バー」に立ち寄ろう。
2階の「レストラン カミヤ」へ。

当方はドライの中ジョッキと
電氣ブラン・オールドを1杯づつ。
相方はもう飲めないと云うんで
横浜はホテル・ニューグランド発祥の
プリン・アラモードに落ち着く。

20時にはお開きとなったものの、
楽しいひとときでありました。

「弁天山美家古寿司」
 東京都台東区浅草2-1-16
 03-3844-0034

「レストラン カミヤ」
 東京都台東区浅草1-1-1 2F
 03-3841-5400

2024年8月28日水曜日

第3611話 2年ぶりの「美家古寿司」(その1)

近頃めっきり鮨屋に行かなくなったが
2年ぶりに浅草「弁天山美家古寿司」へ。
J.C.は此処で江戸前鮨のイロハを教わった。
ひいてはおのれの人格形成に
大きな影響を与えてくれた店だ。
師匠は今は亡き4代目である。

今宵の相方はアパレル界で
辣腕を振るうT子サン。
ひと月近くも前に電話予約を入れたが
混み具合が半端でなく取れた時間は
開店の17時から18時過ぎまでー。
18時半には次の予約が詰まっている。
人気なんだねェ。

おノボリさんみたいに雷門で待ち合わせ。
2年ぶりに暖簾をくぐると
6代目が出迎えてくれた。
つけ台でビールを注ぎ合っていると、
5代目が2階から降りてきてくれた。

予約の際、接客のオネバさんとのやりとり。
「5代目はつけ場に立たれてますか?」
「いいえ、お昼は降りてますが
 夜は2階で待機です。
 呼べば降りて来ますヨ」
「いえ、いえ、そんなおそれ多い。
 いいです、いいです」

そのハナシをすると
「オカザワさんが来られるんでネ」
「うれしいなァ、ありがたいです」
お通しはまぐろ角煮。
時間が押しているので
さっそくにぎってもらう。

鮨だねの順番はほとんど毎度同じ。
完全にルーティン化している。
皮切りは平目昆布〆と小肌。
ここで4代目の思い出話を一くさり。

「ボクが初めておジャマしたのは
 長いこと途絶えていた隅田川の花火が
 復活した1978年のことなんです。
 初めての『美家古寿司』なんで
 それなりの覚悟がいるでしょ」

二人の親方も連れも一様に
「フン、フン、フン」
吉永小百合じゃないけど奈良の鹿のフンだ。

「土井善晴サンのお父さんの土井勝サン。
 あの方が書いた本に
 『本物の味を訪ねて』ってムックがあって
 そこに昆布締めと小肌で始めヨ、とのこと。
 その通りに注文したら
 背中向けて玉子を焼いてた4代目が
 クルリと振り向いてニッコリ笑い、
 自らにぎり始めてくれたんですヨ。
 認められたみたいでうれしかったなァ」

=つづく=

2024年8月27日火曜日

第3610話 岩下志麻と桑野みゆき

現在、神保町シアターで開催中の
「太陽族とギラギラの若者たち」
(狂熱の刹那的青春映画史)
すでに3本観た。

最初の「黒い河」(1957)は
巨匠・小林正樹らしからぬ凡作で
語るに値しないためスルー。

2本目の「乾いた湖」(1960)は
岩下志麻の実質的映画デビュー作。
監督はのちに彼女を妻に迎えた篠田正浩。
志麻は可愛いけれど何だかなァ・・・。
肩透かし感否めず。

初期の彼女を扱わせたら
篠田よりも小津安二郎がはるかに巧み。
持ち味をじゅうぶんに引き出せている。

3本目は大島渚の代表作、
「青春残酷物語」(1960)。
はるか昔に観たが好きな作品だ。

J.C.は大島監督と一度だけ言葉を
交わしたことがある。
ときは前世紀末。
ところは NY の Japan Society。
「愛のコリーダ」の上映会だった。
むろんノーカット版だから
藤竜也と松田暎子の性交シーンはそのまんま。

終映後のささやかなカクテルパーティー。
「監督がご存命のうちにこの映画が
 無修正のまま日本で上映されることは
 あると思われますか?」
「う~ん、まず無理だろうね」

でありまして「青春残酷物語」。
主演の川津祐介もさることながら
ヒロインの桑野みゆきが素晴らしい。
一発でファンになってしまった。

せっかくだから J.C.の好きな女優を
発表しておきましょう。
作品ならともかくも
人間に順位はつけられない。
便利なアイウエオ順で並べたら
12人にもなっちゃった。

青山京子 有馬稲子 市原悦子 
岩下志麻 小川真由美 加賀まり子 
北原三枝 京マチ子 桑野みゆき 
高峰秀子 団令子 藤純子
 (赤字故人です)

ん? 綾瀬はるか?
ん? 吉高由里子?
知らんヨ、そんな人たち。

「太陽族とギラギラの若者たち」
「戦争を知らない子供たち」「宵待草」
「八月の濡れた砂」「自動車泥棒」
4作を残すばかり。
30日(金)には終了する。
翌31日(土)から
「山口百恵映画祭」が始まります。

2024年8月26日月曜日

第3609話 盆踊りより 盆ビール

「大天門」ではグッとこらえて
お冷やに口をつけなかった。
このあとビールを美味しく飲みたいからだ。

実は第一志望店「鯛樹」のビールの銘柄に
見当がつかず、苦手だった場合に備え、
よくお世話になる牛めしチェーン、
「松屋」の最寄り店を調べておいた。
大門駅そばの店舗をマーク済みである。

脇目もふらずに一目散。
券売機のドライ中瓶をポチッ!
うれしいことに10月まで
冷たいビール・キャンペーン中。
通常490円のところ、
100円引きの390円と来たもんだ。

誰も飲んでいないなか存分に楽しみました。
お盆ビールは格別ですな。
盆踊りよりずっといい。
もう1本イケるけど、ここは自重する。

御成門から都営三田線に乗り、日比谷下車。
地下の通路を交通会館へまっしぐら。
くぐった暖簾は「徳田酒店」だ。

カウンターに陣を取り、
ドライの大瓶と鯛皮ポン酢を通した。
鯛飯転じて鯛皮となるの巻。
ところが仕込みが間に合わずに空振り。

それではと接客のアンちゃんに
「馬刺しの産地と赤身か霜降りか
 そこんところ訊いてきておくれ」ー
銭形平次の子分・八五郎じゃないが
ひとっ走り、走らせる。

カナダ産赤身と聞いて発注に及んだ。
しっかり7切れにタタキみたいな細いのもー。
薬味は、似非わさび・にんにくスライス・
みょうが混じりの刻みねぎ。

にんにく2枚じゃとても足りない。
さっきのアンちゃんにもうひとっ走り。
すると八五郎、ごっそり持って来た。
でかした! 使えるヤツだ。

大瓶をお替わりしてお勘定は2060円。
大満足である。
これから神保町シアターに向かう。
岩下志麻のデビュー作を観るんです。

「松屋 芝大門店」
 東京都港区芝大門2-1-1
 080-5928-0633

「徳田酒店」
 東京都千代田区有楽町2-10-1
 東京交通会館 B1F
 090-3483-6999

2024年8月23日金曜日

第3608話 蟹レタス炒飯に 逃げたんだガニ

お盆の真っ只中。
京成小岩の二の舞を踏むまいと
ネットでチェックしてから昼めしにー。
”あと30分で開店します”
和食店が暑いお盆に頑張るねェ。
港区・大門の「鯛樹」を目指した。

ランチの献立は宇和島鯛飯一本やり。
つい先日も大江戸線で向かう途中、
高校の野球部員が大挙して
乗り込んで来やがって騒音に閉口。
森下で下車の憂き目を見たのだった。

到着すると鯛飯屋の扉は閉じていた。
あんだよぉ! それはないだろがっ!
ネットってのはまったくアテにならない。
すると3軒隣りの中華料理店に数名の列。
いろいろ探し回るのもイヤだし
取り合えず逃げ込んじまおう。

5分と待たず、入店できたが
中でまた5分待ち、2階に案内された。
1・2階合わせてかなりの大箱は
「中国酒家 大天門」と来たもんだ。
大門で「大天門」かい? 
ちと出来過ぎだな。

ランチ写真は1品に1頁を割いた大写し。
ザッと紹介してみましょう。
冷やし担々麺 1500円
麻婆豆腐  1000円
蟹とレタスの炒飯 1000円
海老と卵のチリソース 1200円
油淋鶏 1200円
「干し海老香る」担々麺 1100円
鶏白湯麺 1100円
汁なし担々刀削麺 1200円

ミニ小鉢メニューもあって
水ギョーザ(2個)300円 
シューマイ(2個)300円
よだれ鶏 150円
干し豆腐の冷製 150円

この値段じゃ蟹はあまり入ってないな。
期待できなくとも蟹好きはあえて注文。
よだれ鶏も一緒にお願いした。
生ビールが香るエール、中瓶はプレモル。
完全にアウト・オブ・テイストでスルー。

炒飯は案の定、レタスが主役だった。
脇の包米湯(ホンミータン)は
玉子&コーンの中華を代表するスープ。
そして小ちゃい杏仁豆腐。

わりと美味しく食了はしたけど
北上野「栄来軒」のズワイガニが
たっぷり入った蟹炒飯が食べたい。
つくづく思ったことでした。

「中国酒家 大天門」
 東京都港区浜松町1-24-7
 03-3437-7211

2024年8月22日木曜日

第3607話 わが青春の アラン・ドロン

88歳にしてA・ドロンが世を去った。
J.C.が最もたくさん観た洋画は
彼の主演作である。

人生において一番、影響を受けた映画は
1960年に公開された「太陽がいっぱい」。
日比谷スカラ座のリバイバル・ロードショウ。
’65年7月のことであった。

ロンドンやストックホルムにも棲んだが
ニューヨークのほうがずっと長い。
にもかかわらず、若い頃から終始一貫、
米国派ではなく欧州派であり続けたのは
すべて「太陽がいっぱい」のおかげだ。
今も洋画のマイ・ベストである。

中学時代の国語の授業。
三宅先生がから”しのぐ” という言葉を使い、
例文を作れという出題。
当てられたJ.C.、答えて
「岡澤はアラン・ドロンをしのぐイイ男だ」
自分で言うのもなんだがコレは受けたヨ。
教室に爆笑が渦巻いたんだ。

以来、ラジオ番組の電話リクエストでは
「上一中の A・ドロン、岡澤君へ・・・」
「板高の A・ドロン、岡澤君へ・・・」
女子たちから曲を贈られたものだ。

それでは彼を偲び、
主演映画のマイ・ベスト10。
タイトルのあとは監督&共演者です。

① 太陽がいっぱい
  R・クレマン M・ラフォレ
② 若者のすべて
  L・ヴィスコンティ A・ジラルド
③ 冒険者たち
  R・アンリコ L・ヴァンチュラ
④ ボルサリーノ
  J・ドレー J=P・ベルモンド
⑤ 地下室のメロディー
  A・ヴェルヌイユ J・ギャバン
⑥ 危険がいっぱい
  R・クレマン J・フォンダ
⑦ 暗黒街の二人
  J・ジョヴァンニ J・ギャバン
⑧ 太陽はひとりぼっち
  M・アントニオーニ M・ヴィッティ
⑨ サムライ
  J=P・メルヴィル N・ドロン
⑩ ハーフ・ア・チャンス
  P・ルコント J=P・ベルモンド
 次点:友よ静かに死ね
  J・ドレー N・カルファン

ドロンよ、静かに眠れ。
本当にお世話になりました。

2024年8月21日水曜日

第3606話 恐れ入りやの 立ち食いそば

「らーめん殿」で中瓶を2本飲んだが
真っ直ぐ帰宅する J.C.ではない。
まずは京成小岩から脱出しよう。
南に歩いて小岩に行けば、
お盆休みでも店探しに苦労はすまい。
それとも青砥か立石に京成線で戻るか?

ふと思い当たったのが
先ほど降りた京成高砂である。
金町在住の友人に
「美味しい立ち食いそば屋さんが
 高砂駅前にあるから行ってみて!」
その言葉を思い出した。

暗い夜道の独り歩きはヤバい。
各駅停車に乗り、引き返した。
帰りがけだから営業中してるかどうか
確かめもしなかった。

開いていました、やっていました。
「新角(しんかど)」は駅改札から30秒。
立ち食いスペースが狭いのなんのっ!
6人も立てば、あとは外で待つしかない。

先客のカップルと間隔を保って立つ。
こういう店には珍しくも
券売機はなく、あと払い。
券売機は大嫌い、後ろにつかれたら
落ち着かないったらありゃしない。
ぜひとも他店に見倣ってほしいネ。

眺めた品書きに立ち食いそば屋と
思えぬほどの品々が並んでいた。
”店主が出会った地方の美味い物シリーズ”
そんな謳い文句があった。

宮城県・女川の茹でだこ。
ここは震災の被災地だネ。
広島県のがんす(魚カツ)。
これは呉市が本場だろう。
そして生たら子が
北海道・虎杖浜(こじょうはま)産。
日本最高峰のたら子は此処で生まれる。

うれしいのはほとんど全て、
ハーフポーションがあるんだ。
かき揚げそばを半麺で通したら
かき揚げも半分に出来るとのこと。
思わずニッコリお願いした。

サッポロ黒ラベルのレギュラー缶、
玉ねぎかき揚げそばどちらも半分、
がんす半分、ミニたら子丼。
いずれも標準を超えており、
勘定は北里柴三郎1枚と少々。

恐れ入りました。
ごちそうさまでした。
また寄らせてもらいます。

「新角(しんかど)」
 葛飾区高砂5-36-1
 電話:ナシ

2024年8月20日火曜日

第3605話 東京にも鎌倉がある(その2)

京成小岩で途方に暮れ之助。
駅前南口に1軒だけ「新まつり」なる、
赤ちょうちんが開いていた。
ただし、品書きの ”し” の字もなく、
店頭にビールのラックがあるでもなく、
情報が皆無では踏ん切りがつかない。

北口に廻った。
こちら側のほうが拓けているようで
牛めしや焼き鳥のチェーン店があった。
京成小岩商栄会なる商店街が
新柴又方面に延びている。

するとこの商店街、
途中から千代田通り商店街に切り替わる。
ちょうど江戸川区と葛飾区の境目で
地番は再び鎌倉の4丁目。
懐かしの昭和がプンプンと香りまくる。

この道は以前、確かに歩いたゾ。
いつだったか思い出せない。
おそらくJR小岩から
京成高砂に向かったんだろう。

シャッターストリートでもないのに
軒並みシャッターが下りているのは
お盆のせいとしか考えられない。
飲食可能な店は1軒としてなく、
営業中は洋菓子「ピノキオ」と
生うどんを小売りする「大沢製麺所」のみ。

いや、もう1軒あった。
ハンバーグやパスタが食べられる。
食べられるけど人間だけで入れるのかな?
「DOG CAFE BEE」。
その名の通り、ワンちゃん連れ用カフェだ。

中をのぞいたら若い娘に相撲取りが2人。
鬢付け油の甘い匂いが店外に漏れ漂う。
足元にワンコが1匹寝そべってるが
おい、おい、相撲取りに
四つ足は験(げん)が悪いぜ。

結局は薬局、駅チカに戻り、
唯一開いてた「らーめん殿」のカウンター。
相当年季が入った店だ。
どうせ何処かに移動するから軽いものをー。

ドライ中瓶を飲みながらメニューを眺め、
おつまみセット(400円)を見つけた。
これしかあるまい。
脂身ビッシリのバラチャーシュー3枚、
かなりの量のシナチク&茹でもやし。
オネバさんとオネエさんのツーオペである。

中瓶追加で1760円の会計時、オネエさんに
「お店に "殿" は居ないのネ?」
「いいえ、いつも居るんですけど、
 たまたま今日は・・・」
そりゃそうだ、男手ナシで「らーめん殿」じゃ、
どうにもカッコがつかないヨ。

「らーめん殿」
 東京都江戸川区北小岩6-11-13
 03-3671-8500

2024年8月19日月曜日

第3604話 東京にも鎌倉がある(その1)

東京都内にも鎌倉があります。
なあんて言ったら
オマエは何を言うとるんだ!
となりますわな。
でもネ、あるんですヨ、ジッサイ。
ところは葛飾区。

その日は日暮里駅から京成本線に乗り、
江戸川区・京成小岩に向かった。
たまたま来た特急列車は
小岩には停まらず、一つ手前の高砂で下車。
数日前も京浜急行の青物横丁で降りて
鮫洲まで一駅歩いたが、その二の舞である。

線路沿いにテクテク。
高砂北公園を過ぎた頃、
地番は高砂3丁目から4丁目へ。
そしてほどなく鎌倉2丁目に移った。
思い出すなァ。
15年も以前、この道筋を今は亡き、
めしとも・金ピカ先生と連れ立って歩いた。

彼のオフィスが千葉県・市川にあり、
駅前で待ち合わせて
そこから高砂まではるばると
今日の逆筋を往ったのだった。
途中、鎌倉1丁目の町中華で
昼めしを食ったっけ。

当地・鎌倉は正保(しょうほう)年間、
将軍・家光の時代の改定図に
鎌倉新田の名が見られ、それが初出。
名前の由来は鎌倉八幡宮を勧請、
鎌倉から来た源右衛門さんが開発など、
諸説あるものの、決め手はないらしい。

さて、本日は鎌倉1丁目から
区ざかいを越えて
江戸川区・西小岩5丁目にー。
京成小岩駅の手前、
目当ての「三平大衆酒場」に到着した。
すると、シャッターが降りてるじゃん!

昨日からお盆休みだとサ。
ガッビ~ン! あんだよぉ!
でも、これは J.C.が悪いやネ。
調べを怠ってんだもの。
毎日がお盆休みの身には
世間一般の常識が欠落しとるな。

「三平」は出直すほかにない。
けれどもそこから苦労した。
代替店が見つからないんだ。

=つづく=

2024年8月16日金曜日

第3603話 昭和喫茶で キリマンジャロ

気温36度の旧東海道をテクテク。
歩いてるバカなど見かけることもない。
と思いきや、黒い日傘をさして
ヨロヨロよろける爺さんとすれ違った。
おい、おい、爺ちゃん、危険な暑さだヨ。
言葉を飲み込んで、さらに前へ、前へ。

ほどなく差し掛かる日本そば「吉田家」。
何度か利用したがずいぶん値上げされた。
いくら大車海老使用とはいえ、
天せいろが4300円と来たもんだ。
インバウンドならともかく、
フツーの日本人にゃ、まず手が出まい。

立会川を立会川橋で渡り、
11年前に1度だけおジャマした、
「鳥勝」の店先にやって来た。
のみとも・半チャンと彼の GF、
大森芸者のしのぶチャン行きつけの店で
2人にすすめられ、訪れたのだ。
開店の16時半までだいぶあってスルー。

旧東海道に戻った。
しばらく往くと再び立会川に架かる浜川橋。
またの名を涙橋という。
鈴ヶ森刑場に送られる罪人とその親族が
互いに涙を流す別れの橋である。

なおも直進、鈴ヶ森刑場跡に到達。
八百屋お七が生きながらにして火炙り、
丸橋忠也も生きながらにして磔刑、
それぞれ処せられた場所が此処である。

JR大森駅にやって来た。
すでに汗だくだくで牛丼のつゆだく状態だ。
気を取り直し、本日二つ目の目当ては
昭和レトロの喫茶店「ルアン」。
コーヒーに縁遠いJ.C.ながら
キリマンジャロがぜひとも飲みたかった。
理由は後述するとしてストレートでお願い。

なるほど10分は掛かったかな?
並みのブレンドとはワケが違うネ。
ふむ・・・酸味は強いが薄っぺらさはなく、
コクに奥行きと深みがあって一体感を伴う。
これを”三位” ならぬ、
”酸味" 一体と云わずして何と云う。

実はこのキリマンジャロ、
数日前にロンドン時代の夢をみたんだ。
あれは1974年だからきっちり半世紀前。
読んでいた文芸春秋のお笑いコラムに
或る夫婦の会話。

「隣りのご夫婦、こんな夜中に
 コーヒー淹れて何するのかしら?」
「ギリマンじゃろ」

クックック、苦笑をこらえることが
できませんでした。
おあとがよろしいようでー。

「珈琲亭 ルアン」
 東京都大田区大森北36-2
 03-3761-6077

2024年8月15日木曜日

第3602話 一人鮫洲で 焼く肉は・・・

この日の出没先は
品川区・鮫洲に決めてあった。
都営地下鉄・三田駅で乗り換えた電車は
京浜急行・三崎口行き。
鮫洲には停まらないので
一つ手前の青物横丁から旧東海道を歩いた。

駅前から旧東海道に入ると
左手に「魚富士」なる鮮魚店。
店先に新鮮なサカナたちが並んでいる。
心が動いたのは食味が素晴らしい、
北海道・支笏湖産のヒメマス(姫鱒)。
これが1尾400円也。

よっぽど買おうと思ったものの、
これから長丁場、生のサカナを
ぶら下げて歩くわけにはいかない。
後ろ髪を引かれつつも断念。

ほどなく鮫洲に到着。
鮫洲といえば、江東区・東陽町と並び、
運転免許試験場のイメージだが
今日の狙いは焼肉店「乙ちゃん」。
(株)乙川畜産食品の直営店である。

ボックス席と板の間があり、
4人掛けのボックスへ促される。
店内の状況を探ろうにも
背もたれが高すぎて見渡せない。
まっ、いいか。

おすすめのランチメニュー、
上カルビ&上ロース定食(1520円)を
ドライ中瓶(680円)とともに発注。
大・中・小から択べるライスは
もちろん小サイズでー。

調った膳は、大きめ厚めの肉片6切れ、
サニーレタス、もやしナムル、
かき玉スープ、ライスの陣容。
スープを一口すすり、一人焼き始めた。

メニューには
霜降りと赤身の両方堪能できます
明記されてはいたが、さほどの差異はない。
まずまずの肉質ながら
わざわざ遠征するほどの値打ちもない。

美味しさも中くらいなり。
そんな心境で2200円を支払い、
なおも旧東海道を真っ直ぐに
立会川方面へ南下しましたとサ。

「焼肉乙ちゃん 本店」
 東京都品川区東大井2-5-13
 03-6433-2914

2024年8月14日水曜日

第3601話 スペインにも魔王があった

その日の昼めし後の散歩は炎天下。
神楽坂下から外濠沿いを行き、
市谷亀岡八幡宮のふもとに到達した。
汗を拭きながら急な石段を上り、
八幡さまに参拝する。

此処はかの太田道灌が江戸城築城の折、
西方の守護神として鎌倉の鶴岡八幡宮を
分祀したのが始まり。
鶴岡(つるがおか)に対しての
亀岡(かめがおか)なのだ。

当時は市谷御門内にあったが
寛永期に外濠が出来た際、現在地に移転。
三代将軍・家光の加護を受け、
境内には茶屋や芝居小屋も出来て
賑わいを見せるようになった。

愛読する永井荷風「つゆのあとさき」に
たびたび登場し、彼にとって
思い入れの深い場所だったことが
ひしひしと伝わってくる。

その八幡神社の石段下に
1軒のスペイン料理屋を見とめた。
「エル・チリンギート」は
スペイン語で ”海の家” や屋台食堂の意。
昼の営業は、火・水・木の週3日のみ。
料理もスペイン風チキントマトカレー、
これ1品だけである。

10日後に訪れた。
生ビールもあるようだが
スペインのビールが飲みたい。
いろいろ揃ううち、Maouをお願いした。
ん? マオウ(魔王)?
音楽ファンなら第一感はシューベルトで
呑み助なら鹿児島県錦江町の芋焼酎かー。

再び、ん? スペイン産にしちゃ重いな。
まっ、いいか。
カレーはスパイス感がイマイチ。
水準には達しているが
わざわざ食べに来なくとも・・・てな感じ。

トッピングは野菜か豚バラのグリルで
どちらもたった100円。
豚バラをチキンに加えては
カレーがトンチキになるので野菜にすると
大根・かぼちゃ・さつま芋だった。

会計は1852円也と細かい。
外濠を市ヶ谷橋で渡って
靖国通りを上り、九段坂を下って昭和館。
昔懐かしいニュースを観ていこう。
そのあと神保町「魚勝」に立ち寄り、
M奈チャン相手に白ホッピーとまいろう。

「エル・チリンギート」
 東京都新宿区市谷八幡町12-1
 03-5579-2858
 050-5890-8477

2024年8月13日火曜日

第3600話 日暮里の 丘に上りて 町中華

この日の気温は35度、
まあ、大したこたァないやネ。
支那そばみたいなラーメンが食べたいが
家の近所に旨いラーメン屋はない。

1年ほど前だったかな?
団子坂下にオープンした「しのぶ」は
最初のうちこそ気に染まったものの、
3度目でイヤになっちゃった。

こうなると日暮里駅と夕焼けだんだんを結ぶ、
御殿坂上の「花家」しかないやネ。
丘に上った。
思い出すなァ・・・
先のGWに急逝した、のみとも・O野チャン。
彼は「花家」の大ファンで当店を
日暮里・谷中界隈の休憩所としていたんだ。

ラーメンとワンタンが650円。
そしてワンタンメンまで同値である。
麺と雲吞、両方減量されるので
あれこれ食べたい向きにはありがたい。

ドライ中瓶に枝豆が寄り添う。
5分足らずでワンタンメンが調った。
バラ肉チャーシューにシナチク、ナルト、
加えて絹さやがどんぶりを彩り、
理想的な昭和の中華そばである。
ワンタンは6個もあった。

細打ちほぼ真っ直ぐ麺はほどよいコシ。
スープも子どもの頃に味わった醤油味。
今の世の中、多彩なラーメンの氾濫。
けれどシンプルに勝るものはナシ。

翌週、今度は塩味が欲しくなって再訪。
タンメン・五目そば・あさりラーメンの
塩味トリオから五目そばを中瓶と注文。
これもワンタンor ワンタンメンに応用可能で
前週同様、ワンタンメン仕立てでー。

チャーシュー、豚小間・だし巻き玉子、
ゆで玉子、かまぼこ、小松菜、キャベツ、
玉ねぎ、人参、キクラゲ、シメジ、エノキ。
相手にとって不足はないが
塩スープは化調が強く、醤油スープに軍配。

「花家」はジャンボ餃子も人気だ。
あちこちの卓から注文が入る。
地元の女子栄養大学 短期大学部と開発した、
あらかわ満点メニュー、
日暮里餃子定食(880円)が推奨の品。

餃子はあまり感心しなかったが
しばらくぶりにトライしてみるかー。
お誂え向きの3個餃子(380円)を通す。
デカい! 「亀戸ぎょうざ」の倍以上。
豚挽き・ニラ・キャベツもたっぷり。
頑張ったもののやはり無理で1個残した。

1930円を支払い、
オモテへ出たら気温は37度もあった。
暑っ! いや、熱っ!

「花家」
 東京都荒川区西日暮里3-2-2
 03-3821-3293

2024年8月12日月曜日

第3599話 両国の「亀戸ぎょうざ」初見参

この日も上野御徒町から都営大江戸線。
大門で宇和島の鯛めしの予定だった。
ところが途中の蔵前で高校生だろうか?
野球部員みたいなのが大勢乗り込んで来て
車内はにわかに騒々しくなった。
こりゃたまらん、両国で途中下車を敢行。

地上に出て思案投げ首。
思い当たったのが「亀戸ぎょうざ 両国店」。
この餃子屋は亀戸本店が「亀戸餃子」。
支店の錦糸町・両国・大島は
それぞれ「亀戸ぎょうざ」を名乗っている。

たびたび当欄で紹介しているけど
J.C.がもっとも愛好するのは大島店。
東京一の焼き餃子は此処にある。
錦糸町店で訊いた話によると
餃子は工場で一括製造され、各店に配送される。

錦糸町のオニイさんに
「店によって味わいが異なるんだけどなァ」
「それは焼き方、焼き方が違うんでしょう」
てな、こってした。

さて、両国店はお初である。
店先を何度か通ったが未踏だ。
入って右側に長いカウンター。
左手は小上りになっている。

カウンターでドライ大瓶を通すと
おキマリのもやしがサーヴされる。
茹でてからサッと炒めた感じがとても好く、
ビールを頼まぬ客の気が知れない。
大きなお世話か?

1皿(5カン)だけ通した餃子は
焼き目が強く、焦げ茶色より黒に近い。
なるほど店によって焼き方が違うんだネ。

かた焼きそばを麺半分でお願いした。
皿うどんのように細いタイプが好みながら
当店はやや太目だ。
上に載ったあんかけは豚の小間切れに
野菜類とキクラゲで、白菜がずいぶん多い。
老酒を2杯いただき、会計は2530円也。

かつて棲んだ隣り町の浅草橋へと
隅田川を両国橋で渡り、
ついでに神田川を柳橋で渡った。
足繁く通った「梅寿司」と洋食「大吉」が
仲良く健在、ご同慶の至りなり。
立ち寄りたいが、すでに腹いっぱいで
それは無理な相談なのでした。

「亀戸ぎょうざ 両国店」
 東京都墨田区4-34-10
 03-3631-3740

2024年8月9日金曜日

第3598話 鳥居酒屋に飛び込んで (その2)

江東区・森下はのらくロード入口そば。
「鳥椿」のカウンターで
サッポロ黒ラベルを飲んでいる。

あとで調べて判明したことに
当店は板橋区・大山発祥の大衆鳥酒場。
現在、大山・鶯谷・雷門に直営店が3軒。
上板橋・築地・森下にFCも3軒。
どうりで見掛けたことがあるわけだ。

それはそれとしてカウンターの常連オジさん。
何も言わないにもかかわらず、
白ホッピーと焼酎がサーヴされた。
そこに鮨屋のガリ(漬け生姜)と来たもんだ。

思い出すなァ、ガリチュウ。
あれは2018年1月末。
千葉県・本八幡の居酒屋「馬越」でのこと。
ほぼ満席の中、どうにか滑り込んだ隣りに
妙齢の女性がソイツを飲んでいた。

初めて目にした異物に思わず、
「ソレは何ですか?」ー訊ねたら
「ガリチュウですけど、飲んでみますか?」
「エッ、いいんですか」
「どうぞ!」ー目の前に置いてくれた。
信州・上田生まれの彼女とすぐに意気投合。
その後、連れ立って2軒目へ流れたのだった。

現実に戻って「鳥椿」。
サントリーパーフェクト生中に移行した。
京都の木屋町でサッカーのW杯予選、
ミャンマー戦を観ながら飲んだっけ。
鳥レア串・梅じそを追加で焼いてもらう。
焼き物は備長炭かどうか不明ながら
炭火だったことは確かだ。

チャンネルが「ミヤネ屋」から
医療ドラマに変わった。
これもあとで判ったことだが
フジTVの「医龍」というヤツで
ボ~ッと観ているうちに惹き込まれた。

1時間番組の2本立てだったが
2話完結の様子で続きが観たくなり、
大瓶をもう1本追加の巻である。
結局は薬局、2時間半の滞空となった。

帰りがけの都営地下鉄・森下駅そば。
カレーパン発祥店として世に知られる、
「カトレア」を通りすがった。
四半世紀前に1度食べたが
ふ~ん、こんなモンかなという印象。
まっ、せっかくだから2個購入。

その夜、かじってみたら前回より好印象。
以前はウスターだか中濃だかの味が強く、
あまり好きになれなかったけど、
改善のあとが見られるネ。

これならばイケるとばかり、
もう1個は仏壇に供えた。
チ~ン! 
いえ、鼻をかんだんじゃなくて
鈴(リン)の音です。

「大衆鳥酒場 鳥椿 深川森下店」
 東京都江東区常磐2-10-8
 03-6659-3885

「元祖カレーパン カトレア」
 東京都江東区森下1-6-10
 03-3635-1464 

2024年8月8日木曜日

第3597話 鳥居酒屋に飛び込んで (その1)

バスに乗るのが好きである。
その次が電車で、地下鉄は一番最後。
窓の外が真っ暗闇だからネ。
地下鉄は辛うじて都営大江戸線が好き。
都知事だった石原慎太郎が試乗した際、
「ずいぶん狭いな」とのたまわった線だ。
東京メトロなら最古の銀座線がいいな。

上野御徒町のプラットフォームにたたずみ、
内回りでも外回りでも先に来た方に乗るつもり。
外が先着して乗り込んだ。
門前仲町・築地市場・六本木・都庁前経由、
終点光が丘行きである。

乗ってから考えるのは毎度のこと。
隅田川の下ををくぐり、墨東・森下で降りた。
のらくロードにでも行ってみよう。

清澄通りを南下していて通りの向こう側に
営業中の「鳥椿 深川森下店」を見とめた。
どこかで聞いた店名だが利用したことはない。
門仲の人気店「魚三酒場」の流れを汲む、
「魚三酒場 常盤店」の2軒隣りだ。

「魚三」が開くまでは2時間もあった。
ガラス越しに「鳥椿」の中をのぞくと
グループが1組和気あいあい。
よおし、決めた! 飛び込んじゃえ! 
カウンターに滑り込む。
正面のテレビが「ミヤネ屋」を映していた。

ビールは黒ラベルの大瓶。
トクトクやってググイのグイ~ッ!
浅草でん、深川でん、
下町で飲む酒は胃袋に染み渡る。
山の手だととてもこうはいかない。
山の手が無くなっても東京は東京だが
下町が消えたら東京は北京になっちまう。

今日は朝食がブランチにズレてしまい、
ハムとトマト&きゅうり、
2種のサンドイッチを食べた。
よって飲みたいけれど、あまり食べたくない。

接客のオネバさんに
塩煮込みが鳥であることを確認して発注。
これがなかなか好かった。
鳥皮に加えて肩肉だろうか?
あとは豆腐とコンニャクだけ。
煮込みとして正しい姿だ。

塩煮込みは鳥が一番。
豚モツならば味噌が好く、
牛スジの場合は醤油の甘辛仕立てが好ましい。
それが煮込みの三段論法というものである。

カウンターにJ.C.から1席空けて
常連らしきオジさんが座った。
おやァ? オジさん何も言わないのに
飲みものが出て来たヨ。

=つづく=

2024年8月7日水曜日

第3596話 珍しき哉 うなぎ居酒屋

日暮里の名所、夕焼けだんだんを降り、
谷中銀座を突っ切ると
Tの字でぶつかる谷中よみせ通り。
此処に昔からあるのが鰻屋「山ぎし」。
十数年前まで同じ屋号を
ちらほら見かけたものだが今は他に
旧白山通りの計2軒だけになった。

かつては穴子寿司で名高い、
谷中三崎坂「乃池」の真向かい、
朝日湯の隣りにあった。
穴子と鰻ががっぷり相対していたのだ。
「山ぎし」の店主に聞いた話では
他店はみな三崎坂からの暖簾分けとのこと。

友人から当店に関して情報が舞い込んだ。
「谷中の『山ぎし』って鰻屋さんご存じ?」
「12年前に1度だけ行ったけど
 印象が好くなくて、それから行ってない」
「先日、友だちが行ってスゴく好かったって」

ふ~む、近所だし久々に行ってみるかー。
お昼に訪れた。
あれェ、けっこう混んでるネ。
それに値付けがずいぶん安くなったような。
ちと意表を衝かれた思いがした。

何よりも目をくぎ付けにされたのは
壁にズラリ並んだ品書きだ。
ドライ大瓶を飲みつつ、つぶさに目を通す。
うざく・う巻き・うな肝佃煮・肝焼き・
鯉のあらい・鯉こく・柳川鍋・みがきにしん・
玉子焼き・焼き鳥・湯豆腐・月見とろろ、
はては鯉のあらいカルパッチョ水餃子まで
居酒屋も真っ青のラインナップである。

一番小さい鰻重松(1600円)を通したが
安いだけあってあまり感心しなかった。
鰻の定食がもっと安いので後日再訪。
ゆり定食(1300円)を注文。
鰻重松と同サイズの蒲焼きが付き、
小冷奴・煮ひじき・お新香・
わかめ吸い物の陣容である。
肝吸いがわかめになるから安いのか?

うなぎ居酒屋というのは極めて珍しい。
近所ということもあり、晩酌に訪れてみた。
ふきの煮びたしと肝の佃煮でドライの大瓶。
そして純米酒・尾瀬の雪どけを飲んだが
初めて目にする鯉のヒレ酒だけは
さすがに”飲指” が動きませんでした。

「山ぎし」
 東京都台東区谷中3-13-9
 03-3827-5763

2024年8月6日火曜日

第3595話 近頃は そば屋ばかりの 昼ごはん

以前は日本そば屋と町中華を訪れる比率は
どっこいどっこいだったのに
このところ明らかに偏ってきた。
圧倒的にそば屋が増えている。
近頃の昼ごはんはそば屋ばかりだ。
まごうことなく歳のせいだろうネ。

殊に夏場は熱い中華そばより
冷たい日本そばが食欲に直結する。
この日もご多分にもれず、であった。
家のそばから乗った早稲田行きのバスを
不忍通りと本郷通りの交差点、
上富士前で降りた。

利用したことはないが
「松月庵」の存在は認知している。
暖簾をくぐると典型的な町そば屋の雰囲気。
入口そばのテレビのふもとに着席した。

”冷やし中華 始めました” と壁の貼り紙。
そうかい、そうかい、始めたかい。
そば屋の中華そばは大好きだが
それ以上に冷やし中華を目にするのは
スープを仕込む手間が省けるからだ。

冷やし中華は冷やしきつねに
毛を生やしたようなモンだから
ほとんど手間がかからない。
出そうと思ったら簡単に出せるのだ。
よしっ、今日はコレでいきましょう。

ドライ大瓶をトクトクトク。
柿の種&ピーナッツをポリポリポリ。
初めてのそば屋でそばを食わずに
冷やし中華ってのもなァ・・・
それをコラムで紹介するのもなァ・・・

まっ、いいかー。
歳を取ったらなるべく面倒なことは
考えないようにしよう。
考えすぎると寿命が縮まる。

皿を彩るハム・錦糸玉子・ナルト・
きゅうり・わかめ・紅生姜。
具材はけして良質じゃなくとも
ややちぢれ中太麺の噛みしめ感が
良質のパスタを思わせて快適。
麺類は麺が旨けりゃ、それでいいのだ。

近々、ウラを返してもりそばをいっとこう。
好印象だったら当欄で紹介致します。

「松月庵」
 東京都文京区本駒込2-28-30
 03-3941-5403

2024年8月5日月曜日

第3594話 大師西から大師裏へ

日暮里・舎人ライナーを西新井大師西で下車。
鯖の味噌煮で麦酒が飲みたくなり、
朝からやってる「みたけ食堂」へ一目散。
ビールだけはあるものの、
日本酒・焼酎・ウイスキーの類いは全滅。
壁に ”居酒屋使いは出来ない” と明記され、
強い酒を求める呑ン兵衛は足を向けない。

いつものようにドライの大瓶を
フロア担当のオジさんにお願い。
テキパキ動いて面倒見のよい御仁である。
1杯クイッと飲ったらスタンダップ。
料理ケースに向かった。

当店の鯖味噌は少量ながら350円の大特価。
J.C.にピッタリの小サイズは
味噌煮というより味噌醤油煮で
この味付けがまことによろしい。

まずは1皿トレイに乗せ、もう1品物色。
「これは野菜炒めですか?」
「八宝菜ですっ!」ー厨房のオバちゃん即答。
海老は見えないけど野菜に混じる豚肉を確認。
楽しくも吞気な昼呑みと相成った。

本日はもう1軒つぶしておきたい。
環七の北を並行して走る、
わりと広い通りを真東に歩いた。
夏に強いJ.C.もさすがに37°超えはキツい。
熱中症とは無縁の身だが
途中、クラクラっときた瞬間があった。
およそ20分で大師裏の北参道に到達する。

日本そば屋「はせ川」の引き戸を引く。
ビールは有難いことにスーパードライ。
一本穴子天ざる(1100円)を通し、
そばが来るヒマもあらばこそ、即もう1本。

穴子は鮨屋が好んで使う、小ぶりのめそっ子。
茄子とピーマンも同居している。
天ぷらはそれぞれにまずまず。
期待を上回る味わいのそばに
つゆも甘みが勝つものの好きなタイプ。
近隣の常連さんでそこそこの賑わいだ。

帰りに大師門前の「清水屋」に
草だんごを買おうと立ち寄ったら
今日・明日は臨時休業と来たもんだ。
真向かいの「中田屋」(文化2年創業)で
女将さんから声を掛けられた。
こしあん・つぶあんのほか、
甘味を抑えた塩あんがあり、12個入りを購入。
塩あんにつぶあんはなくこしあんのみだ。

その夜の草だんごは
半分をバター醤油で焼いてビールの友に。
残りを塩あんでお茶受けに。
二刀流は大谷並みの活躍だった。
ちなみに文化2年は1805年だ。
古っ!

「みたけ食堂」
 東京都足立区谷在家2-5-2
 03-3890-4421

「はせ川」
 東京都足立区西新井6-40-10
 03-3890-5866

「中田屋」
 東京都足立区西新井1-5-12
 03-3890-2933

2024年8月2日金曜日

第3593話 なじみとなって 仲良しこよし (その2)

神保町「魚勝」は靖国通りと
専大通りの交差点近く、
銀行が入居するビルの地下にある。

いつも飲むのはホッピーの外1&中2。
加えて清酒・大関の冷たいのか、
梅沢富男のCMでおなじみの
レモンサワーを1~2杯。

つまみは真鯛の松皮造り、かつおタタキ、
能登半島のナマコ酢など、
魚介系から択ぶことが多い。
いつもあるとは限らないが
北海道のエイ(カスベ)の肝刺しも
大の気に入りである。

開店時刻の15時から
せいぜい17時の間におジャマするのが常で
滞空時間は60分から長くても90分。
スタッフはM奈チャンが接客。
鮨職人上がりのH野サンが厨房の2人体制。
M奈チャンが休んだときの助っ人がKるクン。
彼女は同じフロアの和食店「き介」から来る。
その向かいのイタリアンと合わせ、
3軒は同じ経営の姉妹店なのだ。

いつの間にやら3人とも
気心の知れる仲となった。
仲良しこよしと呼んでもらって差し支えない。
ほうら陽水も歌い出したヨ。

♪ 仲良しこよしは なんだかあやしい
  夕焼け小焼けは それより淋しい
  一人で見るのが はかない夢なら
  二人で見るのは たいくつテレビ
  星屑、夜空は 星屑、ひとりきり

  楽しいことなら 何でもやりたい
  笑える場所なら 何処へでもゆく
  悲しい人とは 会いたくもない
  涙の言葉で 濡れたくはない
  青空、あの日の 青空、ひとりきり ♪

    (作詞:井上陽水)

「青空、ひとりきり」は1976年3月25日に
リリースされた陽水5枚目のアルバム、
「招待状のないショー」に収録されている。

この日のことはよく覚えている。
J.C.が生まれて初めて海を渡ったのは
1971年3月25日11時。
ソ連船・ハバロフスク号で横浜を出港した。

’76年3月25日は5イヤー・アニバーサリー。
同時刻の11時には再び大桟橋に行ってみた。
あのとき、巣立った19歳の少年は
海原、ひとりきり でした。

2ヶ月後に帰国したとき、街には
五木ひろしの「よこはま・たそがれ」が
流れておりました。

「魚勝」
 東京都千代田区神田神保町2-4
 東京建物神保町ビルB1

 03-3221-0861

2024年8月1日木曜日

第3592話 なじみとなって 仲良しこよし (その1)

第3551話で紹介した立ち飲み酒場「魚勝」。
初めて訪れたのは5月末で
その後、いくたびもおジャマしている。
先日の稿を振り返ってみたい。

この夕も晩酌は専大前の「魚勝」。
前々日の初回ですっかり気に入ってしまい、
早くも常連の仲間入りである。
マルエフ生中3杯に芋焼酎・白金の露を1杯。
つまみはまぐろの茎わさび和えのみ。

実は初回にうれしいことがあった。
このことについては後日、
何度かおジャマして本当の常連になってから
あらためて紹介したい。

そうして本当の常連の仲間入り。
実は初訪の際、店に忘れ物をした。
それに気付いた接客係の女性が
店の外まで追いかけて来てくれ
手渡してくれたのだった。

モノは訪問の1時間前に
千代田図書館で借りたばかりの書籍。
京都の旅の直前のことで
滅多に入手できない京都に関する本だった。
コレを忘れると面倒なことになる。
「間に合って良かったです」ー
この一言にこのコはいいコだなと思い、
思わずハグを・・・
いえ、しなかったけど心に残った。

以来、ほぼ週に一度は立ち寄っている。
立ち飲みながら居心地がバツのグンなのだ。
唯一の悪材料は生ビールのマルエフ。
同じアサヒでもドライと異なり、
マルエフは重過ぎる。

最初のうちこそ何杯か飲んだが
そのうち嫌気がさし、以後はホッピー専門。
よって、昨日紹介した、
「キッチンきらく」で赤星を飲んだあと、
繰り出すのが常態化している。

2回目の訪問時は「きらく」のきらく焼きを
お礼のおみやげとして持参した。
彼女の名前はO島M奈チャン。
三十路手前の古風な面立ちは
NHK「光る君へ」に出て来そうな感じ。
難点はときどき臨時休暇を取ることだ。

=つづく=