2024年9月16日月曜日

第3624話 アルゼンチンから はるばると

 ♪   月の沙漠を はるばると
  旅の駱駝が ゆきました ♪

沙漠をはるばると行ったのは駱駝だが
アルゼンチンからはるばると
やって来た動物もあった。
馬である。

出逢ったのは神田司町の名酒場「みますや」。
当店はわが亡父と同い年の明治38年生まれ。
親近感が生じて幾度も訪れている。
暖簾をくぐると見慣れた光景。
右が小上り、真ん中椅子席、左手座敷。
そこをスス~ッと抜け、奥の卓に着いた。
ロの字カウンターにも似た大テーブルだ。

ドライ大瓶を飲みながら、
お通しの結び昆布煮を噛みつつ、
入念に品書きをチェックする。
そこにあったのがアルゼンチン産馬刺し。
霜降り2400円、赤身1800円。
けっこうなお値段である。
ふところにお伺いを立てて赤身にした。

すると接客のオニイさん。
「にんにく100円ですが、お付けしますか?」
「うん、お願い!」
したらば、おろしにんにくがゴッソリ来た。
こんなん平らげたら明日は人に逢えない。
ましてやハニーとのデートなど
もってのほかであろうヨ。

赤身は上質でウマかった。
中央競馬にもアルゼンチン共和国杯が
あるくらいだから彼の国は馬に馴染みが深い。
さすがに馬刺しは食わんだろうがネ。

ほどなく左隣りに中年カップルが着席。
J.C.同様に赤身の馬刺しを通した。
ほかにも4~5品いっぺんに注文している。
(よく食べるなァ)もちろん口には出さず、
心の内でつぶやく。

ん? 料理が3品並んだのにビールはまだ。
さすがに旦那が催促している。
見かねたJ.C.、
「ハハ、コレはないですよネ?」
思わず声掛けしてしまった。

そこから会話が始まって1時間半の滞空中、
会話が途切れることはなかった。
訊けば、奥さまは古美術商、旦那は役者さん。
おかげで楽しい一夜となりました。
ありがとう。

ドライ大瓶2本、信州の真澄2合、
馬刺し1皿、お勘定は金4700円也。
「みますや」は佳い店であります。
ごちそうさま。

「みますや」
 東京都千代田区神田司町2-15-2
 03-3294-5433