2011年9月14日水曜日

第140話 くわえパイプにぶったまげ

ビン・ラーディン終焉の地、パキスタンのカラチにて
”酒難”に翻弄された顛末を2回に渡って記してみたが
そもそもハナシが脇道にそれたのは黄昏どきの本郷。
独り気軽に一杯飲れる店を探していたのだ。
東京の街にはスッと立ち寄り、
サッと飲めるスポットが絶対的に不足している。

昭和の半ば頃までは酒屋の立ち飲みコーナー、
いわゆる角打ちがそこかしこに見られたものだが
今や、ああいった儲からない商売は絶滅の危機に瀕している。
「明治は遠くなりにけり」がが死語となった現在、
「昭和も遠くなりにけり」の時代に生きる味気なさよ。

結局、本郷三丁目駅近くの「加賀屋 本郷店」に入った。
東京に十数軒ある「加賀屋」はチェーン店のようだが
すべて独立採算の暖簾分けらしい。
同じく居酒屋の「三州屋」、
大衆食堂の「ときわ食堂」みたいな形態なのだろう。

「加賀屋」の名物は一律、判で押したように特製煮込み鍋。
他店におけるもつ煮込みをやや大型化した感じ。
じっくり煮込まれた豚シロ(小腸)の味わい深さは特筆モノだ。

「いらっしゃいませ~!」―大きな掛け声で迎えられた。
店内の活気、スタッフの元気は
数ある「加賀屋」の中でもトップクラスではなかろうか。

ネクストに鮨屋が控えているのでつまみは最小限にせねば。
スーパードライの大瓶を頼むと、
突き出しはイカゲソと里芋の煮っころがし。
見た目が最悪でずいぶん黒ずんでいる。
箸を付けるのがはばかられるほどだ。
それでもつまんでみると、意想外に味はよかった。

ボリュームのある煮込み鍋を避け、
焼きとんのレバーを2本お願いしたが
あまり感心しなかった。
串がデカいだけでタレもしょっぱいだけ。
江東・墨田・葛飾・江戸川区など、
川向こうの名店群の足元にも及ばず、
「加賀屋」は煮込みでもつということか。

オープンキッチンを見渡すカウンターに収まったので
厨房スタッフの仕事ぶりが手に取るよう。
いや、実にこれが興味深かった。
5人の男たちは右から揚げ物担当のヒゲオヤジ。
煮込みと焼きとん、いわばモツ係は金髪の若い衆。
真ん中には包丁1本、刺身を切盛りする店長風。
続いて枝豆・サラダなど、野菜モノを扱うオッサン。
最後に一番年少とみられる皿洗いのアンチャンだ。

流れるような分業制は飲食業にたずさわる者なら
一見の価値があり、学ぶところ少なからずである。
ただし、ほぼ全員がスモーカー、嫌煙家は耐えられまい。
殊にぶったまげたのは揚げ手のヒゲオヤジである。
驚くなかれ、くわえタバコならぬ、
くわえパイプで仕事にいそしむ。
蝶タイ・チョッキの喫茶店主ならまだしも
他分野の飲食業で、くわえパイプに初めて出食わした。
かつててんぷくトリオを率いた故・三波伸介じゃないが
ビックリしたな、もう!

「加賀屋 本郷店」
 東京都文京区本郷2-39-5
 03-3818-1194