2011年9月28日水曜日

第150話 塀の外をすり抜けて (その1)

まことに唐突ながら
いまだかつて刑務所には入ったこともないし、
面会に訪れたことすらない。
自ら入所するのはイヤだが
後学のために1度くらいは面会に訪れてみたいと思う。
しかしながらわが友人・知人には
大した度胸の持ち主がおらず、望みは実現していない。
お~い! 
旨いモン差し入れるから誰か入所してくれや~い!

東京拘置所、いわゆる”東拘”、
またの名を”小菅”の塀の外は何度か歩いている。
千住方面からなおも北へ、
あるいは東へ向かう散歩のルート上に位置しているからだ。

東武伊勢崎線・小菅は
駅前にコンビニ風のスーパーがあるほか、
ホンの数軒の飲食店が散在しているばかり。
あとは拘置所に隣接して
小さな団地風の建物がひっそりとたたずんでいる。
町全体がヨソ者を拒んでいるような淋しい町なのだ。
もっともこういう土地柄に盛り場があるほうがおかしいか。

その日は北千住から綾瀬を目指して歩いていた。
拘置所の脇をすり抜け、
頭上に首都高速6号三郷線がかぶさった綾瀬川を渡ると
目の前におもちゃのような米穀店が現れた。

”桶亀”という屋号は珍しいが隣り町は亀有

店先のミニバンや自販機も可愛らしい。
思わずカメラを取り出すのもむべなるかな。

ほどなく東京メトロ千代田線・綾瀬駅前に出た。
北へ10分近く歩き、到達したのは「味安」という食堂。
ここで科学者の卵、カガクくんと待合わせているのだ。
彼はいわゆる”めしとも”だが
下戸につき、”のみとも”にはなれない。
いつもめしをおごってやる代わりに
いろいろと珍しい話を聴かせてもらう、そんな間柄である。

「味安」はこれといった名所のない綾瀬の町にとって
ランドマーク的存在と言えないこともない。
年中無休にして朝7時から夜中の24時まで通し営業。
めしどきを外してもそれなりに混雑する人気店らしい。

店構えがかなり派手、というか品というものに欠けている。
あいや、下品という品があったか!
あとで調べてみたら、ラーメン店から居酒屋、
はてはカラオケボックスまで手を拡げている、
パンダグループの傘下にあることが判明した。
グループ名からして何だか胡散臭い。

個人経営の店は控えめなナリをしているが
グループ経営となると、どうしてこうタガが外れるかね。
勤め人が地味なスーツを着ているのに対し、
芸人やヤクザがド派手な服を着たがるのと一緒かな。

入口左手の待合スポットに子ども連れのファミリーが1組。
土曜とはいえ、まだ15時半だというのに
もう並んでるのかヨ、という感じ。
はて、カガクくんはすでに到着しているだろうか?
並ぶのヤだから居てくれヨ、ぜひ居てほしい。
おもむろに一歩、店内に足を踏み入れた。

=つづく=