2011年9月15日木曜日

第141話 磯のアワビでいい思い

「加賀屋 本郷店」にてくわえパイプの厨房スタッフに
ぶったまげたあともなお、この町にいる。
これからが本番で、「鮨すゞ木」に赴くのだ。

本郷もかねやすまでは江戸の内

紹介したのは江戸時代の川柳。
防火対策を推進した徳川幕府が江戸城から
本郷の大店(おおだな)「かねやす」までは
土蔵造り・瓦葺き建築を奨励したことに由来する。
このとき指揮を取ったのが
TVでおなじみの大岡越前守忠相(ただすけ)だったそうな。

「かねやす」は今も小間物店として営業を続けているが
もともとは歯磨き粉を売り出して評判を取り、
大成長を遂げた商店である。

三丁目交差点で広い間口を誇る

「鮨すゞ木」の暖簾をくぐると
すでにT子女史とT村クンがつけ台に収まっていた。
若者の就職、並びに中高年の再就職をサポートするのが
専門分野のT子女史は、T大で教鞭を取っており、
T村クンはかつての彼女の教え子にして
かつてのJ.C.の直属の部下。
その縁あって、ときどき酒盃を交わす仲なのである。

ビールで乾杯後は宮崎の芋焼酎・夢の番人のロックを。
相方たちは冷たい吟醸酒に移行した模様だ。
真子かれいの薄造りをポン酢でやったあと、
まぐろのカマトロ部分だろうか、黒胡椒と芽ねぎで味わう。
これは「すゞ木」の名物の一つ。

キス一夜干し、〆さばと来て、さばが旨いのなんのっ!
季節の移ろいがスピードアップしているせいか、
秋を待たずして真夏のさばに舌鼓である。
ところが上には上があるもので
お次のアワビがスゴかった。
おそらく外房の海から揚がった黒アワビであろう。
弾力のある厚い身肉もさることながら
添えられた肝が磯の香をいっぱいに放っている。
おまけに煮汁を固めたゼリー寄せがまた泣かせる。

二枚貝のように見えて実は貝殻一枚であることから
磯のあわびの片思いなどと、
悲恋の対象として揶揄されるアワビのおかげで
こんなにいい思いができるとは、さすが界隈一の名店だ。

泉州・岸和田の水なす、
江戸前であろうところの穴子白焼きをはさみ、
にぎりで締めにかかった。
3枚付けの新子、生姜でやるアジ、酸味の乗ったまぐろ赤身、
たぶん墨イカではなく、あおりイカと推測されるイカ、
軍艦ではない、要するに海苔を排徐した海胆。
ここまでは何とか思い出したが、面目なくもあとはおぼろ。
夢の番人のせいで
夢心地になっていたのでは、それも致し方あるまいて。

「鮨すゞ木」
 東京都文京区本郷2-31-1
 03-3817-7711