2011年9月22日木曜日

第146話 消えてゆくもの 残るもの

1905年(明治38年)築の本郷館が消えた。
1905年といえば、
前年に始まった日露戦争が終わった年である。
震災に耐え、戦火を忍び、
奇跡的に生き残った学生たちの館が
ついにその終焉を迎えてしまった。
もう二度とあの不気味な姿を拝むことはできない。

あとで知ったのだが
何でも8月初旬に3日間に渡ってライトアップされた由。
それぞれの思いを胸に訪れ、
別れを告げた人も少なくはなかったろう。

月に一度はすぐそばの鮮魚店で買い物をする慣わし。
その折にちょくちょく立ち寄ったものだった。
すでに更地になったが最後の雄姿をカメラに収めておいた。

夕闇迫る本郷館

確か8月の第1週だったからライトアップの前後だと思われる。

解体にあたっては
立ち退きにからんで民事訴訟に発展したと聞いた。
建物が消えてなくなった今、
トラブルもカタがついてノーサイドを迎えたのであろうか。
跡地の土を眺めていると、
空襲に見舞われた焼け跡に佇んでいるかのよう。
芭蕉が傍らにいたなら一句ひねったに相違ない。

そんなこんなで最近は本郷の町を訪れることが多い。
お盆の直後にも東大正門前の老舗店でカレーを食べた。
1914年(大正3年)創業の「万定フルーツパーラー」だ。
1914年といえば、
第一次世界大戦が勃発した年である。

もともとは果物屋でその後フルーツパーラーに変身、
ずっと東大のセンセイたちの御用達であったそうな。

なるほど懐旧の心をくすぐる

今ではフルーツジュースだけが
フルーツパーラーを偲ぶよすがなれど、
看板メニューはカレーライスとハヤシライス。


チョコレート色のカレーライス(750円)

見た目はフツーながら味わいはビミョーで
辛さよりも苦みが主張している。
カレーを始めたのは昭和30年代に入ってかららしい。
それでもあの頃に
町の食堂で食べたカレーとは似ても似つかない。

評判を聞きつけた遠来の客を
ありふれた一皿で落胆させるくらいなら
個性的な味を記憶に残すほうが大切かもしれない。
そう思って食べ進むうち、違和感も薄れてこようというものだ。

ハヤシライスは打って変わって甘さがきわだつ。

やや赤みがかったハヤシライス(850円)

カレーもハヤシも万人の味覚に合うとは言いがたいものの、
これだけ長きに渡って生き残っているのだから
根強いファンの支えがあらばこそ、
ふらりとやって来たヨソ者がとやかく言う筋合いではなかろう。

「万定フルーツパーラー」
 東京都文京区本郷6-17-1
 03-3812-2591