2012年6月19日火曜日

第341話 プチ・ラビラントの偶然

サブタイトルは変われど、
早いハナシが昨日のつづき。
読者にしても品川東口のディープスポットに
チラリふれられて”そのまんま東”では気掛かりでしょうよ。

かくしてわれら三ばか大将は
夜の品川駅の大コンコースを通り抜けて行った。
エスカレーターを降りてそのまま道なりに進み、
道路を一つ渡ったらメインストリートを行かずに
その1本左の小道へ分け入る。
さすれば昭和30年代の世界に迷い込めるのだ。

プチ・ラビラント=リトル・ラビリンス=小さな迷宮

即物的に巨大な品川駅のひざ元に
このようなレトロ・ワールドがあったとは!
初めての者は誰しも
唖然として言葉を失う迷宮がここにある。

西新宿の思い出横丁、立石の仲見世商店街、
大井町の東小路をさまよっているかの錯覚にとらわれる。
こういう空間で飲む酒は
文句ナシに旨いことを身体が覚えている。

何度か訪れていても馴染みの店はない。
どの暖簾をくぐろうともほどんど初顔だ。
界隈をグルグルと2周ほどしたろうか。
ふと思って割烹着姿の女将が
独りで切盛りする小料理屋に白羽の矢を立てた。

ビールを頼むと、キンピラが一緒に出された。
シャキシャキ感のある優れたキンピラだ。
追いかけて分葱のぬたがやって来た。
和食フルコースの直後なのであとのつまみは控えてもらう。

心なしか店の雰囲気にも馴れ、
穏やかな時間が流れてゆくときに女将が訊ねた。
いったいわれわれ三ばか大将は
どこからどのようにこの店へやって来たのかと。

当日のハープ・コンサートに言及すると、女将応えて曰く、
「エッ? 何それ? アタシ去年、そのハープを聴いてるヨ」
「な、何だって! こちらそのときのハーピスト。 
  じゃ、MCやってたオレも覚えてる?」
「ん? 横で何だかペラペラしゃべってる男がいたねェ」
「アチャー!!」
てなことでございました。
何でもこの女将、ちょうど1年前に
せんぽ病院に入院していたんだとサ。

病院のロビーに集まった聴衆は
去年も今年も多くていいとこ50人くらいであろう。
いくら高輪と品川が目と鼻の先といえども
こんな偶然があるものだろうか。

ここでJ.C.はハカセに言いました。
来年のコンサートのあとは無理しなくっていいヨ。
江戸前鮨も加賀料理もいらないヨ。
この女将のこの店で
一席設けてくれればそれでいいからネ。

店の名を「宝亭」という。
「中華料理屋みたいな名前だな」―そうほざいたら
女将は一瞬、イヤ~な顔をしたけれど、
一緒に飲んでるうちに仲良し小良しになっちゃったもんネ。

「宝亭」
 東京都港区港南2-2-9
 03-3471-1696