2012年9月12日水曜日

第402話 思い立って銚子の港 (その1)

朝目覚めてこの日はどこかへ行きたい気分。
行く気になったのは千葉県・銚子、
下総の東のはずれ、利根川河口の漁港である。
銚子といえば犬吠埼だが、岬に立つつもりはなく、
昼めしのための遠征だった。

目当ては「丼ぶり・定食屋 久六」の金目鯛。
銚子は金目鯛の北限とされ、脂の乗った上物が水揚げされる。
とりわけ外川港に揚がったものは当代一の呼び声が高い。
「久六」はほかにまぐろしかない金目の準専門店なのだ。

成田を経由して列車は一路東へ。
水郷・佐原を過ぎてしばらく、大利根が眼下に広がった。
条件反射で脳裏をよぎったのは

 ♪ 利根~の  利根の川風  よしきりの ♪  

おい、おい、またそれかヨ、耳タコだぜ!
読者に叱られそうだから「大利根無情」はやめておく。
 
銚子駅から歩くこと15分あまり。
日活の裕次郎映画の舞台になりそうな光景に出くわした。
銚子漁港事務所兼直販所

その真ん前に「久六」

品書きのXジルシが気になった。
なっ、なんだよォ! 
こりゃ、あかんぜよ、”金目のキンちゃん”全滅の巻である。

しょうがねェなァ、また出直すとするか・・・。
去りがたきを去ろうとして思いとどまった。
どうせ次回も単身だからいっぺんに両方は食べられん。
今回、まぐろだけでもつぶしておこう。
のども鳴ってることだし、
まずはビールという名のガソリン補給だろう。

午後2時だったが店内に先客はゼロ。
応対に出てきた女将サンが申し訳なさそうに
「あのゥ、本日は金目がございませんが・・・」
「ええ、まあ、ここまで来ちゃったもんですから・・・」
「そうですか、どうもすみません」
物腰柔らかく言葉丁寧な女性である。

カウンターに着席して所望したのは
まぐろスタミナ揚げセットとサッポロ黒ラベルの中瓶。
見回すとカウンター6席に座敷のテーブルが12席。
2階にも席がありそうだ。

旬を外しても深海魚の金目はほぼ一年を通して獲れるハズ。
ビールを運んでくれた女将に訊ねてみた。
「今日は市場に出回らなかったんですか?」
「いいえ、そうじゃないんですヨ」
首を振りながら応えたものである。

=つづく=