2012年9月17日月曜日

第405話 茄子と生麩とラクレット

板橋区・下板橋に都立北園高校がある。
中学三年生だったJ.C.は入学を目指したものの、
われわれの学年から天下の悪制、
学校群制度なんてのが施行されて望みがかなわなかった。
よって板橋高校を3年間の学窓としたわけだ。

はるか昔のハナシはさておき、
北園高校の隣りに担々麺の旨い店があると聞き及び、
出張っていったのは4年前の四月だった。
店名を「栄児家庭料理」という。
”栄児”はロンアールと”発音する。
本郷は壱岐坂上に支店を開いたと聞いたものの、
訪れることとてなく、ずっと未踏のままだった。
それがヒョンなことから行く 機会に恵まれた。

ある夜、酒友のM鷹サンと本郷で飲む手はずになった。
本郷三丁目駅の近くにあるもつ焼き屋で待ち合わせたが
席の確保ままならず断念。
そのとき、ふと思いついたのがここだった。
同じ本郷でも菊坂より
壱岐坂のほうに足が向きやすかったせいもある。

生ビールは苦手なエビス。
それを回避して瓶を頼むと、注文をとったウエイターくん、
途中でUターンしてきた。
「あのゥ、瓶もエビスなんですけど・・・」―
おい、おい、そういうことは初手から言うてくれい!
消去法で残ったのが中国産の燕京(ヤンジン)ビール。
結果、青島(チンタオ)よりマシだったのが不幸中の幸いだ。

M鷹サンが真っ先に食べたがったのはきくらげ炒め。
けったいなものがお好きな御仁だ。
案の定、旨くもなんともなく、そりゃそうだろうヨ、
きくらげなんざ、脇役に撤していればよい食材。
主役を張るのは土台ムリなのだ。
小籠包子もパッとしない。
海老と野菜の塩味炒めは語るに値しなかった。

紹興酒も飲まずに勘定を済ませ、清水坂を下る。
本郷も白山も谷根千も、とかく文京区には坂が多い。
そうしてたどり着いたのは湯島天神下の「シンスケ」。
都内屈指の酒亭につき、ここなら間違いはない。

クラシックラガーで軽くノドを潤したあとは
両関本醸造の常温である。
つまみは真っ先に水茄子の一夜漬け。
続いて来れば必ず注文する生麩田楽ときつねラクレット。
生麩は京都は錦小路にある「麩嘉」の製品だ。
きつねラクレットは油揚げの中に
ラクレットチーズをはさんであぶったもの。
いずれも恰好の酒の友である。

本郷の仇を湯島で討つことができ、溜飲を下げた次第。
やはり中華と和食の最大の差はデリカシーだろう。
連中にゃ悪いが民族的にもそうかもしれない。
TVで中国の反日デモを見ながら切実にそう思った。

「栄児家庭料理 本郷店」
 東京都文京区本郷3-15-1
 03-5800-5111

「シンスケ」
 東京都文京区湯島3-31-5
 03-3832-0469