2014年1月2日木曜日

第743話 この冬最初の河豚を囲んで (その2)

板橋は小竹向原、和食店「樽見」の奥座敷。
先着の特権で独り飲みを始めていると、
鴛鴦(おしどり)夫婦の♀のほうが先に現われた。
かたときも離れていられない番(つがい)につき、
すわっ!異変かと思いきや、何のことはない♂は
他のメンバーを出迎えに駅改札に出張っていたのだった。

やがて”八人のサムクナイ?”が勢揃いし、
定刻には忘年の小宴が始まった。
さっそく大皿に盛られた河豚刺しが登場。
四人前づつの豪勢な二皿である。
ポン酢に添えられた柑橘はかぼすだ。
河豚ポンには本来、橙(だいだい)だが
当世、橙は簡単に手に入らないのだろう。
そういえば、濃いミカン色のことをダイダイ色と言わなくなって久しい。

橙は代々に通じ、縁起がよいから正月飾りに使われる。
収穫せずにおくと、数年はそのままぶら下がっているという。
本当だろうか、にわかには信じがたいハナシだ。
そのすさまじい生命力が代々につながった。
ただし、苦みが強いため、ダイレクトに食されることはほとんどない。
何たって英名がビターオレンジだもの。

「刺身は河豚が旨いが、鍋なら鮟鱇のほうが上だ」―
人間国宝、五代目・柳家小さんの言葉である。
確かにそうかもしれぬ。
この人は永谷園の即席みそ汁ばかり味わっていたわけじゃない。
湯島のうなぎ屋「小福」にはいまだに
故人のマイどんぶりが飾られている。
「うなぎは重箱じゃ旨くない、どんぶりで食わなきゃ!」―
さすが国宝、おっしゃる通りでございます。

J.C.なりに白身魚を語らせてもらえれば、
刺身の筆頭は皮はぎ、それに準ずるのが平目と相成る。
鍋はどうだろう。
筆頭は真鱈、続いて目抜(あこう鯛)か、
ハタ・アラ・クエの仲間たちということになる。

 「樽見」の河豚刺しはもちろん虎河豚。
良心的な価格設定からして
天然ものではなかろうが、旨みはじゅうぶんだ。
ちり鍋を愛でたあと、雑炊はホンのちょっとだけいただく。

店の女将だったかな?
三重県・伊勢市出身の方で締めはご当地名物の伊勢うどん。
日本で一番太いうどんは江戸時代、
お蔭参りの参拝客に供したのが始まりだ。
長旅に疲れた旅人の胃ににやさしいヤワヤワうどんは消化がよい。
加えて茹で時間を気にせずに済むため、
次から次へと押し寄せるせわしない客をさばくのにも最適だった。
いや、満足の満腹であった。

年々、忘れられゆく忘年会。
この顔ぶれは今年の暮れもまた、
この場所に集結するのでしょう。
あと何年続くかな・・・。

「樽見」
 東京都板橋区小茂根1-10-17
 03-3959-0885