2014年1月1日水曜日

第742話 この冬最初の河豚を囲んで (その1)

新年、明けましておめでとうございます。

さて12月のスケジュール表を見返すと、
昨年はいつもの年より忘年会が少なかった。
殊に10人を超える大型宴会がまったくない。
周囲の友人・知人、
あるいは気心の知れた飲食店のスタッフに訊ねてみて
世の中全体の流れがその方向に向かっていることを確信した。

赤穂浪士、吉良邸討ち入りの日の翌夜、
板橋区・小竹向原に同い年の八人が集(つど)った。
老い先それほど長くもない面々は
さながら七人のサムライならぬ、
八人のサムクナイ? といったところでありましょう。

ともあれ忘年会の会場は板橋にはまれな和食の佳店「樽見」。
食の不毛地帯とまで他区民にさげすまれる板橋区ながら、
この店は格別、とってもいいですゾ。
われら同期の仲間うちでは
鴛鴦(おしどり)もうらやむほどの仲睦まじきカップル、K木夫妻、
彼らのホームグラウンドがこの「樽見」なのだ。

月に何度か夫婦で訪れては水入らずの酒杯を重ねているらしい。
何せこの二人、高校の同級生だってんだから
そろそろ互いに見初め合って半世紀、
いったいどんだけ一緒にいりゃあ気が済むの?
てなもんや・・・三度笠。

例によって当夜は早めに仕掛け、
最寄り駅に到着したのは開宴の30分以上も前。
もちろん狙いは見知らぬ店の踏査である。
地元民が和やかに集う酒場が理想なれど、
下町とは勝手が違ってそんな便利なものはまずなかろうし、
あったとしても常連の隠れ家であろうヨ。

名店は隠れないというけれど、それは情報行き交い、
またそれを共有できる都心のことで
この地は帝都のはずれのまたはずれ、板橋ですもの。
都の西北、早稲田の杜の、そのまた西北ですからネ。

結局、ターゲット見当たらず、しばし町をさまよった末、
会場に一番乗りした次第だ。
手持ち無沙汰につき、みんなの到着など待ってられやしない。
さっそくお運びのアンちゃんにビールをお願いの巻と相成った。

するとおしぼりとともに突き出しの小鉢がスッと出る。
出たものには即箸をつけるのがわが信条、
さっそく箸先でつまんでみた。
まぐろ中落ちの山芋和えである。
山芋はありがちな千切りではなく賽(さい)の目にカットされている。
中瓶1本を飲むに打ってつけだった。

そうこうするうち鴛鴦の♀のほうが現れた。
アレッ! ♂はどうしたんだろう?
じぇ、じぇ、もう古いか? 
まさか、50年目の破局なんてことは?

=つづく=