2014年1月13日月曜日

第750話 紅燈の江東を往く (その1)

雑誌の取材で江東区の紅燈街を一夜飲み歩く。

1軒目は「たなべ衛」。
好みの銘柄の生ビールでスタート。
手っ取り早いつまみはポテトサラダ。
ポーションが小さいから、たったの150円でまずまず。
かろうじて出来合いではなさそうだ。

続けてオーダーした焼き鳥の皮1本と焼きとんのカシラ1本。
豚のレバーがなぜかなくてカシラにしたが
まっ、こんなものであろうヨ。

壁の貼り紙には”元肉屋が作るメンチカツ”の文字。
この夜はあちこちさまよわねばならず、重いメンチはパスだ。
”刺身は築地直送”
”とにかく大きい鮭カマ焼き(520円)脂のってます!”
なんて謳い文句も。

注文が入るたびに店主の
「ありがとうごさいます!」の大きな声。
接客担当の女性が同句を婦随する。
どう見ても夫婦には見えぬが、とにかくこの二人きりの切盛りである。

彼女に
「この店はいつオープンしたの?」―訊ねると
「2月でしたか、いいえ、去年の12月だったかも?」―頼りない応えだ。
これだけで二人に血縁・地縁のないことは判る。

でも一応、からかい半分で訊いてみた。
「お二人はご夫婦?」―
面くらいましたネ、被質問者は!
「やだ、違いますよォ」―
まるで私にはもっと若いイケメンのカレシがいるんだと言わんばかり。

この店はどうやら焼きモノよりも河岸モノのほうがよさそう。
そこでヒラスズキの刺身を所望した。
見た目悪くない
そこそこ脂が乗って食味は真鯛に似ていた。

その間にもいろいろと注文が入り、
そのたびに
「ありがとうございます!」の連呼、連呼。
「灰皿ください!」―さすがにコレには
「ありがとうございます!」はナシ。
そりゃそうだわな。

芋焼酎の黒霧島を1杯お願いすると、
グラスになみなみと注がれてきた。
ケチケチしないのがよい。

そろそろ河岸を変えねば―。
お勘定は2千円でオツリがきたほど。
費用対効果はよいものがありました。

=つづく=

「たなべ衛」
 東京都江東区1-11-13
 03-3634-1506