2014年7月4日金曜日

第874話 なぜに演歌は北へゆく? (その3)

最近でこそあまり耳にしないが
1960年代から80年代にかけて
叙情を内包したにっぽんの演歌はひたすら北を目指した。
1950年代に日本全国から仕事を求めた若者が
恋人を置き去りにしてまでも東京に向かったのと好対照を成す。

おおざっぱに俯瞰しただけだが
主人公、あるいはその相方が南に去りゆく歌は見つからなかった。
行く先は十中八九、北だから致し方ない。

東もなかった。
ところが数は少ないものの、西はありました。
1972年の年明けにリリースされた藤圭子の「京都から博多まで」である。

  ♪ 肩につめたい 小雨が重い 
   思いきれない 未練が重い 
   鐘が鳴る鳴る 哀れむように 
   馬鹿な女と 云うように 
   京都から博多まで あなたを追って 
   西へ流れて行く女     ♪
         (作詞:阿久悠)       

リアルタイムで好きな曲だった。
「新宿の女」や「圭子の夢は夜ひらく」より耳にしっくりなじんだ。
強く印象に残っているのにはワケがある。
それは1本の邦画だった。

そこは後述するとして1972年の夏、
一世を風靡していたのはこの曲ではない。
吉田拓郎の「旅の宿」と、小柳ルミ子の「瀬戸の花嫁」だった。
天地真理の全盛期でもあり、欧陽菲菲が大ブレークした年でもあった。

1972年のマイベスト10を挙げると、

① さよならをするために・・・ビリーバンバン
② 京のにわか雨・・・小柳ルミ子
③ 旅の宿・・・吉田拓郎
④ 愛する人はひとり・・・尾崎紀世彦
⑤ あなただけでいい・・・沢田研二
⑥ 雨のエアポート・・・欧陽菲菲
⑦ 雨・・・三好英史
⑧ 北国行きで・・・朱里エイコ
⑨ 赤色エレジー・・・あがた森魚
⑩ ふりむかないで・・・ハニーナイツ
 次点: 待っている女・・・五木ひろし

’72年の流行歌には思い出がいっぱい詰まっている。
’71年に最初の欧州旅行から戻り、
’73年にはアフリカ経由で二度目の欧州に旅立つ予定。
その間に挟まった’72年は明けても暮れてもバイトひとすじ。
軍資金の捏造に日々邁進していた時期だった。

=つづく=