2014年7月9日水曜日

第877話 なぜに演歌は北へゆく? (その6)

 ♪ ひとりで行くんだ 幸せに背を向けて 
   さらば恋人よ なつかしい歌よ友よ 
   いま青春の河を越え 
   青年は青年は 荒野をめざす ♪
         (作詞:五木寛之)

フォークソングにおいて青年は荒野をめざすのに
なぜに演歌は北をめざすのか?

昭和の流行歌が大好きなJ.C.は
衰えつつある思考能力をそれなりに回転させてみた。
究明の末、たどり着いた先は二つ。

それは明治と昭和、それぞれの始まりとともにやって来た。
アメリカ近代史において
大きな存在感を放つのは西部開拓史。
そこまでの重さはなくとも北海道開拓史は
まだ明けやらぬ、明治の夜明けに射す、一すじの光だったろう。

札幌農学校の初代教頭・クラーク博士が残した名言、
”ボーイズ・ビー・アンビシャス”に喚起されて
北の大地をめざした青年は少なくなかった。
当時の血気にはやる若者の心に
「行かねばならぬ、行かねばならんのだ!」―
この精神を鮮やかに刻みこんだのだった。

時は流れ昭和の初め。
満洲国設立を機に今度は中国・東北地方へ
多くの日本人は向かった。
大連やハルビンが明治における、
札幌や函館の役割を担ったわけだ。
しかし、その夢は敗戦で砕かれる。

北に向かう志は振り出しに戻る。
その結果、満洲の代替として
再び北海道が脚光を浴びることになる。

小林旭の”渡り鳥シリーズ”。
趣きは異なるものの、高倉健の”網走番外地”シリーズ。
日活も東映もこぞって北をめざした。
旭にいたっては西部劇の「シェーン」よろしく、
カウボーイ・ハットをかぶっちゃってるもんなァ。

おしなべて日本列島の”南”はすでに開発された土地。
比べて”北”は未知の広大な大地だから映画の舞台にはもってこい。
夢を紡ぐに打ってつけだった。

こうして昭和の映画と流行歌は
ただひたすらに、北へ北へと向かう。
失われた満洲のスペア・タイアが北海道だったのだ。

=おしまい=