2014年7月29日火曜日

第891話 連れて帰った黄金虫 (その2)

東武伊勢崎線は鐘ヶ淵。
そう、あのカネボウの工場があった土地だ。
電車が駅に差し掛かった折、
車内で発見した黄金虫を指でつまんだところである。

奴サン、折りたたんだばかりの羽根をまた開き、
どこぞへ飛び立とうと羽ばたくものの、
そう簡単には脱出を許さぬ、
イヤな野郎が車内にいたのが運のツキであった。

スーパーで買った食品のレジ袋の上に置いたらば
しばらく上下を行ったり来たりしている。
どうやらテイク・オフをあきらめた様子にて
そのうち、袋のてっぺんでおとなしくなった。

そうこうするうち、終点の東武浅草に到着。
この街にやって来て
すんなり帰宅の途に着くわけにはまいらない。
さて、どこで飲もうか・・・。
何となく、そのコガネくんを解放する気になれず、
そのままレジ袋の中に放り込んだのだった。

台東区浅草1丁目1番地1号、
街のランドマークと言い切ってよいビヤホールでまずは生中を1杯。
別段、料理は何も取らなかった。
ウェイトレスがプレッシャーをかけてくるわけでもなく、
こういう飲み方ができるビヤホールは大好きだ。
くだらんお通しをおっつけてくるチャーン居酒屋は
ぜひとも見習ってほしい。

ビヤホールのあとは
ちょくちょく顔を出すホッピー・ストリートの酒場でホッピーだ。
白・黒・赤とあるうち、黒の中(ボトル)を1本、
外(焼酎)を2杯で切上げる。

夜もそれなりに更け、そろそろ家に帰らねば・・・。
地下鉄・銀座線の階段を降りかかったときに
ハッと気がついた。
例の袋がないヨ、店に忘れてきたヨ。

あわてたわけでもないが引き返した。
レジ袋は酒場にちゃあんとありました。
中を調べると、鐘ヶ淵で捕獲したコガネくん、
身じろぎもせずにたたずんでおった。

酔いも手伝って、こやつを家に持ち帰り、
どのくらい生きているのか見当もつかないが
一応、保育、いや、飼育というのかな、
とにかく、そうしてみようと思った。
虫を自宅に連れ帰る、何十年ぶりのことであろうか・・・。

=つづく=