2014年7月30日水曜日

第892話 連れて帰った黄金虫 (その3)

何十年ぶりかで昆虫を自宅に持ち帰った。
いや、童心に返るなァ。
と、思いきや、昨夏、油蝉(あぶらぜみ)をそうしたことを思い出した。
でも、あいつはもはや瀕死の状態にあったからねェ。
元気な虫はやはり数十年ぶりになる。

さっそく、愛錨・プッチと対面させる。
去年、蝉と遊んだ経験があるので
大してとまどうでもなく、しばし戯れていた。

そうだ、何か食べものを与えなけりゃ・・・。
童謡には
”飴屋で水飴買ってきた”
とあるから水飴は好物のハズ。
でも男やもめのしがないヤサにそんなモンがあるわけがない。

濃い砂糖水でも作ってやるか?
いや、ちょっと待て!
確かいただき物の蜂蜜があったな。
戸棚の奥に探り当て、即刻開封に及ぶ。

スプーンに1/4匙ほど与えてみたが微動だにしない。
微動だにしなかったが、そのうちモサモサと動き始め、
垂らしてやった蜂蜜をなめ始めたではないか!
水飴ならぬ蜂蜜をなめる
ご覧になってお判りのように
黄金虫は黄金色に輝いているのではない。
光沢を備えた緑色をしている。

もしも黄色い小旗を手に
蟻のと渡りの交通整理に及んだならば、
昆虫界のちょいとしたみどりのオバさんだネ。

奴さん、翌日も生きていた。
ときどき羽ばたいて飛び立とうとするのだが
何せ六つ足がベトベトの蜂蜜に取られて
テイク・オフできないでいる。
ちと可哀想になって
その夜は黄金虫の足を洗ってやって就寝した。

目覚めて翌朝、あやつがいない。
くまなく探したというのではないけれど、
一応、室内を捜索してみたものの、見つからなかった。
部屋は閉め切ってあるから外には出られぬと思うがネ。

さして気にもとめず、そのまま外出して戻ったのは夜。
ライトを点けると、何やら愛猫が戯れている。
前足の先にはくだんの黄金虫である。
黄金虫ではあったが、すでに骸(むくろ)と化していた。
虫かごでも買ってきて
住宅環境を整えてやらなければいけなかったかな・・・。

ところがその黄金虫が帰って来たのであった。

=つづく=