2016年10月10日月曜日

第1465話 八年ぶりの石神井公園 (その1)

 わが母校、上板橋第一中学校は校舎・校庭の三辺を
東武東上線、環状七号線、石神井川に囲まれている。
残りの一辺も旧川越街道にほど近く、
きわめてまれな位置に立地している。

毎年、入学式のシーズンになると、
川のほとりの桜並木がいっせいに花開く。
かといってべつにのどかな岸辺の風景が広がるでもなく、
氾濫防止のためにコンクリートで護岸され、
都会を流れる川の典型ともいえる姿をさらしている。

この川の水源は小金井市花小金井。
小金井カントリー倶楽部の敷地内に湧く水である。
途中、富士見池や三宝池などの湧水を集めて水量を増し、
隅田川に合流している。

かつては石神井公園の三宝池が主源となった時期もあったが
今は枯渇しつつあり、池の水さえポンプで吸い上げている始末。
東京の地下水はいったいどこに消えたのだろう。
おそらく網の目のように張りめぐらされた地下鉄がその主因。
東京五輪以前はそこかしこで当たり前のように
利用されていた井戸水が今はほぼ絶滅、
オバちゃんたちの井戸端会議も殉死の憂き目をみている。

八年ぶりに石神井公園を訪ねた。
いや、公園も三宝池もあくまでついで、
主目的は一軒の食堂である。
その名を「辰巳軒」という。
自著「J.C.オカザワの昼めしを食べる」より、
「辰巳軒」の稿を引用してみたい。

ときは1951年。
無頼派の巨匠でありながら
狂人の異名もとった坂口安吾が起こした騒動に
ライスカレー大量発注事件がある。

石神井公園にほど近い、
同じく無頼派の作家・檀一雄宅に居候として同居していた際、
何を思ったか100人前のライスカレーを
出前注文してしまったのである。

最近ときどき見掛ける、
電子トレードによる株式売買の誤発注ではない。
100人前という数字を
じゅうぶんに認識した上での確信犯である。

犯人の安吾を筆頭
おり悪しく居合わせた者は総勢10人に満たない。
それでもみな果敢に大量のライスカレーに挑んだそうだ。

以下次話で。

=つづく=